フィンテック革命担うZ世代、金融に何を期待?
パーソナライズや自分の価値観の反映、コミュニティー感を重視
Z世代(1990年代半ば以降生まれ)はモバイルバンキングのない世界を知らない。それは金融テクノロジー企業にとって、商機と課題を突きつけている。
ミレニアル世代は、「ベンモ」のような決済アプリや、「ロビンフッド」や「エイコーンズ」のような投資プラットフォームを受け入れ、現在のような金融テクノロジーの時代を切り開いた。しかし、その次のZ世代はそうしたテクノロジーに浸って育っており、旧世代のように手軽さや目新しさには魅力を感じないだろう。彼らは、大衆向けに設計された製品ではなく、高度にパーソナライズされた体験を求めている。
フィンテック企業はこぞって、情報が収集・整理され、パーソナライズされたサービスでそうしたニーズを満たそうとしている。例えば、ユーザーに関するデータをリアルタイムに収集し、各ユーザーが自分の金融習慣を他のユーザーと比較できる決済システムなどだ。フィンテック企業はまた、気候変動や社会意識といったZ世代の関心事に照準を合わせ、そうしたニーズに訴求する製品を提供するなど、クリエーティブな方法で売り込みをかけている。
「既存の金融機関は、自分たちは若い顧客に信頼があると思い込みがちだが、情報の収集・整理やパーソナライズ、顧客とのつながりという点で不十分だ」。こう話すのはコンサルティング会社アーンスト・アンド・ヤング(EY)の米州EYで金融サービス・デジタル・リーダーを務めるニキル・レレ氏だ。
これまでのところ、そうした取り組みは、若い世代の心をつかみ始めている。EYが2021年6月に行った調査では、Z世代の消費者の51%が最も信頼できる金融ブランドとしてフィンテック企業を挙げた一方で、旧来の銀行を挙げた人は23%にとどまった。
新しい優先順位
Z世代の次の三つの行動様式が、フィンテックの進化を促している。クレジットカードによる借金を嫌うこと、ブランドに個人の価値観の反映を期待していること、金融サービス内に、投資を楽しい娯楽的活動してくれるコミュニティーや人脈、自己啓発を求めていることなどだ。
業界団体「銀行管理協会(BAI)」が最近実施した調査によると、クレジットカードが好みの決済方法だと答えた人の割合は、ミレニアル世代が46%、ベビーブーム世代が47%だったのに対し、Z世代はわずか17%だった。この一因は、若い成人がクレジットを利用しにくいことにある。2010年初頭におおむね施行された「クレジットカード説明責任・責務・開示(CARD)法」で、クレジットカードを取得できる最低年齢が18歳から21歳に変更され、クレジットカード会社による大学生への売り込みも大幅に制限された。また、若い成人は信用履歴がないため、クレジット審査にも通りにくい。
しかし、原因はそれだけではない。上の世代が消費者債務に苦しむ姿を目にし、多くの若者には借金に対する恐怖心が植え付けられている。彼らは略奪的貸付慣行や予測不能な利息請求に対する警戒感が強い。そのため、重い金利負担なしに借り入れができるシステムや、ローン期間の返済内訳が明確なシステムに引かれる傾向がある。また、フィンテック企業ポイントの「ポイントカード」など、クレジットカードのような特典制度を提供するデビットカードも利用している。
こうした現状は、アファーム(Affirm)やアフターペイ(Afterpay)、クラーナ(Klarna)などのフィンテック企業にイノベーション(技術革新)を促し、「バイ・ナウ・ペイ・レータ―(BNPL=今買って、後で支払う)」と呼ばれる後払い決済方法が開拓されている。
調査会社イーマーケターの最近の調査によると、2022年末までにZ世代の消費者の約半数が、同年に少なくとも1度はBNPLを利用してオンラインショッピングをしている見通しだ。
このシステムでは、ユーザーが購入した商品の代金をフィンテック企業が小売店に支払い、ユーザーはフィンテック企業に分割で返済する。通常、手数料や金利がなく、支払い方法をカスタマイズでき、決済を承認するか否かの回答を即時に得られる。回答は、厳しい与信審査ではなく、キャッシュフローや取引履歴、クレジットの使用状況などを加味するテクノロジーに基づいて行われる。
BNPLは、結果を素早く得ることに慣れている若い消費者にとって、費用を即座に明確にすることもできる。例えば、アファームを利用して500ドルの机を購入した場合、月払いのさまざまな選択肢が表示され、将来いつ、どのくらいの金額を返済することになるのか正確な内訳を事前に把握することができる。
米ニューメキシコ州サンタフェ在住のエンジニア、アダム・ノードビーさん(24)は、車のタイヤなど緊急の買い物に、BNPLのプランをいくつか利用したことがあると話す。ノードビーさんによると、アファームは取引の総費用の内訳をあらかじめ示し、複数の支払い方法を提示し、支払いが遅れたり、滞ったりしても手数料を請求しない。「『あなたには、これを買う余裕はありません』とか『あなたは、この種のものを買えるほど信用がありません』とか、非常に透明性がある」とノードビーさん。以前アファームから買い物代金の融資を断られたときの、そのような率直なメッセージに感謝していると述べた。「お金を使うときには、そうしたことが重要だ」
フィンテック企業は、Z世代の社会的関心にアピールすることでもイノベーションを起こしている。Z世代は、社会意識の高い世代として広く知られており、気候変動や所得格差、差別などの問題を解決する責任を自分自身や他の人たちに強いている。彼らは、自身が選んだアイデンティティーや価値観を金融サービスが反映することをますます期待するようになっている。フィンテック企業にとって、これは商品の設計や販売方法をさらにニッチ化するチャンスでもある。
「『そのブランドは自分の価値観を反映しているか』ということが、圧倒的な意思決定要因になりつつある。Z世代にとっては特にそうだ」。数多くのフィンテック企業に投資しているベンチャーキャピタル(VC)企業インデックス・ベンチャーズのパートナー、マーク・ゴールドバーグ氏はこう話す。
その一例が、LGBTQ(性的少数派)のコミュニティー向けのデジタルバンク「デーライト(Daylight)」だ。同行では、法律上の名前ではなく、ユーザーが希望する名前でデビットカードを発行しているほか、各企業がどれだけLGBTに配慮しているかを評価する分析ツールを用意し、ユーザーが各企業にどれだけお金を使いたいかを判断できるようにしている。
環境を重視するデジタルバンク「アスピレーション(Aspiration)」は、同行で口座を開設すれば、「自分の財布と地球を助ける」ことになると宣伝している。例えば、同行は消費者の資金を石油や石炭プロジェクトに使わないことを約束したり、プレミアム会員に対しては、彼らが購入するガソリン1ガロンごとに炭素排出を相殺する費用を負担したりしている。さらに、アスピレーションが環境に配慮していると判断した小売店で買い物をすると、最大10%のキャッシュバックを受けられたり、自分の消費習慣に応じて、パーソナライズされた持続可能性スコアを獲得したりもできる。
コミュニティーを重視
Z世代の投資家の多くは、自分の支出や投資を善行に役立てたがっているだけでなく、お金との関わり方に社会的要素を求めている。ソーシャルメディア上の「インフルエンサー」の台頭やゲームストップなどのミーム株の動向は、金融教育や投資にエンターテインメントやコミュニティーを見いだすZ世代が増加していることを物語っている。
銀行やフィンテック企業に不正防止インフラを提供しているアロイ(Alloy)のフィンテック担当ゼネラルマネジャー、チャーリー・マー氏は、若者向けフィンテックの次のイノベーションの波は、コミュニティーの醸成を軸に展開するだろうと話す。「そのコンセプトは、いかにフィンテック製品を多人数参加型ゲームにするかだ」
同氏は、ユーザーが互いの投資を見てコメントできる投資プラットフォーム「パブリック(Public)」の成功や、Z世代の暗号資産(仮想通貨)投資への関心の高さを例に挙げた。暗号資産投資では、ネット掲示版「レディット」やユーチューブの動画のコメント欄、ソーシャルメディア「ディスコード」のチャットルームで多くのオープンな議論が行われている。
「最近は、フィンテック企業であれば、どう興味深いコミュニティーを構築し、そこに人々をどう関わらせ、互いに反応ややり取りをさせるかを検討している」とマー氏は指摘。「それがこの次世代を獲得する新しい方法だ。構築する必要があるのは、これまでよりもはるかにコミュニティーを主体とした機能だ」と述べた。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/generation-z-financial-technology-11642714326?mod=Searchresults_pos4&page=1
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