MSの大型買収、狙うはゲーム版「ネトフリ」
マイクロソフトはアクティビジョン買収により業界の勢力図を塗り替える構え
米マイクロソフトはアクティビジョン・ブリザード買収により、ドル箱のゲーム作品を加えてコンテンツを増強し、クラウド経由のゲームに消費者を誘導することで業界の勢力図を塗り替える構えだ。
750億ドル(約8兆5900億円)相当に上る今回の買収計画はマイクロソフトの創業以来、最大規模となる。またサブスクリプション(定額課金)型サービス「ゲーム・パス」を「ゲーム版ネットフリックス」に育てることを狙った最も野心的な投資とも言えそうだ。マイクロソフトによると、アクティビジョンの買収が完了すれば、売上高で世界第三位のゲーム会社に踊り出る。しかも「コール・オブ・デューティー」「ワールド・オブ・ウォークラフト」「キャンディークラッシュ」など人気ゲーム作品の開発元を含め、傘下に30のゲーム制作会社を擁する大手が誕生することになる。
マイクロソフトは約10年前、法人顧客をサブスク型のクラウドサービスへと移行させた。この戦略が奏功し、時価総額は2兆ドルの大台を上抜け、世界屈指のハイテク企業としての座を守ることができた。アクティビジョン買収の背後には、いずれ法人向けと同じ戦略を使うことで、ゲーマーを高額な家庭用ゲーム機からクラウドへと移行させる狙いがある。
マイクロソフトのサティヤ・ナデラ最高経営責任者(CEO)は1月18日、投資家・報道陣向けの電話会見で「アクティビジョン・ブリザードの買収により、ゲーマー向けに最高のコンテンツやコミュニティー、クラウドを構築し、株主に多大かつ新たな価値をもたらす、またとない投資と技術革新の機会となる」と述べた。
ゲームの舞台が家庭用ゲーム機やパソコンからスマートフォンへと移行する中、将来的には映画やテレビ番組を視聴するように、あらゆる端末でゲームが楽しめるサービスを目指した開発競争が世界的に熱を帯びている。アマゾン・ドット・コム、アルファベット傘下のグーグル、ソニーグループに加え、より小規模な企業の一角も力を入れているが、買収やインフラ構築に巨額を投じているマイクロソフトが、黎明(れいめい)期にあるクラウドゲームで大きくリードしているとの指摘は多い。
バーンスタイン・リサーチのアナリスト、マーク・モアドラー氏は「マイクロソフトはゲーム事業に巨大な野心を抱いている」と話す。「同社は『ゲーム・パス』とサブスク事業を構築するためにゲーム制作会社を相次ぎ買収している」
その上で、マイクロソフトが4億人に迫るアクティビジョンの月間アクティブユーザーの一部をサブスク会員に誘導できれば、クラウドゲーム事業をかなり強化することができるだろうとモアドラー氏は述べる。
クラウドゲームはここにきて台頭している技術で、スクリーンを備えたネット接続端末ならほぼすべて、ネットフリックスやHulu(フールー)で動画を楽しむのと同じ要領でゲームをプレーできる。ただ、ゲームは双方向性であり、途切れないようにするためには大量のデータ送信が必要で、ゲームのストリーミング配信は難しい技術だ。ネットフリックスは昨年、モバイルゲームに参入したが、これまでのところ提供作品は一握りにとどまっており、会員はクラウド経由ではなく、「アンドロイド」か「iOS」対応端末にダウンロードする必要がある。
調査会社オムディアの分析では、昨年のクラウドゲームサービス利用額は37億ドルに上り、このうちマイクロソフトのゲーム・パスが6割を占めた。クラウドゲームの総売上高は2026年までに120億ドルに達すると見込まれている。
マイクロソフトは1月18日、大型買収の発表とあわせて、ゲーム・パスの会員数が過去1年に39%増の2500万人になったと明らかにした。
ナデラ氏は、できるだけ多くのアクティビジョン作品をゲーム・パスで提供できるようにする計画だと述べた。アナリストによると、マイクロソフトは今後発売されるアクティビジョンのゲーム作品をゲーム・パスとゲーム機「Xbox(エックスボックス)」の独占提供とする可能性がある。同社はこれまで買収した企業のゲーム作品についても、すでに同じ戦略を採っているという。
マイクロソフトのゲーム部門責任者、フィル・スペンサー氏は、アクティビジョンの買収発表後に行ったインタビューで「クラウドへの投資を通じて、あらゆる端末に『トリプルA』(大型予算をつぎ込んだゲーム作品)コンテンツを届けるという突出した能力を手にすると思う」と話した。
さらにマイクロソフトにとっては、クラウドゲーム事業を拡大することで一般消費者向けの領域にさらに深く足を踏み入れ、事業を多角化できるという利点もある。そうなれば、ゲーム機市場ではソニーの「プレイステーション(PS)」、クラウドサービス市場ではアマゾンとの差をいずれも縮めることができるだろう。ナデラ氏が思い描く包括的な事業戦略は、クラウドを軸に法人向けソフトウエアから、企業のデータ保管、ソーシャルメディア、デジタル広告に至るまで、多様なビジネスを展開することにある。
マイクロソフトのゲームおよびクラウド重視の態勢は、何年もかけて形成されたものだ。ナデラ氏は2014年のトップ就任以降、法人顧客へのクラウドサービス提供に全力を上げてきた。この戦略はマイクロソフトの時価総額をアップルに次ぐ世界第二位となる2兆3000億ドル近くまで押し上げる大きな原動力となった。
ところが、現・元マイクロソフト社員によると、社内で一般消費者向けの事業は二の次とされ、ゲーム事業は長年、目立たない存在だった。ナデラ氏が法人向けソフトウエア「オフィス365」シリーズの販売とクラウド事業の構築にまい進している頃、Xboxチームは基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」の傘下に置かれ、CEOの直属にはなっていなかった。Xboxグループはその組織構造の中でなかなか居場所を見つけられずにいたという。社員らの話では、ゲーム事業はウィンドウズと投資の優先順位を争い、通常はウィンドウズが勝つことが多かった。
「ウィンドウズの傘下では、ゲーム関連の大掛かりな取り組みと法人顧客向けウィンドウズの機能のどちらに投資するかで、常に譲歩を余儀なくされた」。マイクロソフトを2016年に退社するまでXbox事業に12年間勤務していたリチャード・アービング氏はこう明かす。「ウィンドウズの傘下組織であることの難しさだった」
マイクロソフトの広報担当は、過去のゲーム事業の経営についてコメントを控えた。
一般消費者との主要な接点であるゲームの領域で、積極的にクラウドを利用していくことをマイクロソフトが決めたのは数年前だった。経営戦略に詳しい関係筋によると、社内では法人顧客に成長を頼り過ぎているとの懸念がくすぶっていた。さらに人気動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」や画像共有サイトの米ピンタレスト、ゲームプレーヤー向けチャットサービスを手掛ける米ディスコードといった消費者を相手にする企業の買収を相次ぎ検討したことも、自社のゲーム事業に本腰を入れる要因になったという。
マイクロソフトはまず、100億ドル以上をつぎ込んで積極的な買収攻勢を仕掛け、ゲーム制作会社を次々と取得。昨年買収した「ドゥーム」シリーズなど人気ゲームを含め、大量の作品群を手に入れた。
これはマイクロソフトに限った話ではない。ビデオゲーム業界は近年、世界的な再編や投資の波に乗っている。調査会社ピッチブックによると、合併・買収(M&A)向け投資額は2020年の89億ドルから、21年には262億ドルに膨らんだ。またベンチャーキャピタル(VC)絡みの案件も64億ドルからおよそ倍増となる112億ドルに達し、過去最高を記録した。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/activision-deal-is-set-to-power-microsofts-push-to-be-the-netflix-of-gaming-11642597205?mod=Searchresults_pos1&page=1
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