ゴールドマンの「二刀流」- イエール大学元野球投手、リモートワークを活用してイスラエルの五輪野球出場に貢献
2018年、米イエール大学で最後の試合を投げ終えた時、エリック・ブロドコウィッツ氏(25)の野球人生は終わった、と本人は確信していた。米大リーグ(MLB)でプレーしようという大それた考えもなかった。卒業後は米金融大手ゴールドマン・サックスで自分の能力を生かそうとしていた。
それからしばらくして、野球のイスラエル代表チームの投手に誘われた。
イスラエルの代表チームに入るにはイスラエル国籍が必要だ。チームが五輪出場資格を得るには、ブルガリアやリトアニアなどに遠征しなければならない。コンディションを維持するため、米アイダホ州に移住して独立リーグのチームで投げる必要もある。しかもイスラエルが五輪出場権を獲得したとしても、登録メンバーに入れるという保証もなかった。
それでも、ブロドコウィッツ氏はやることにした。その間もゴールドマンの仕事は続けた。
「自分がリモートで効果的に働けることを証明した」。ブロドコウィッツ氏はニューヨーク州ロックランド郡にある代表チームの練習場でそう話した。
世界ランキング24位だったイスラエルが東京五輪の出場6チームに入ったこと自体、信じがたい話だが、代表チームがブロドコウィッツ氏を見いだしたこともちょっとした奇跡だった。2018年アイビーリーグ野球選手権のコロンビア大学戦でブロドコウィッツ氏は7回1失点に抑えたが、2対1で負けた。
「自分の野球人生は終わりだろうと思った」と、ブロドコウィッツ氏は振り返る。
だが、コロンビア大の選手として息子が出場していたエリック・ホルツ氏がたまたまこの試合を見ていた。かつてウエストチェスター・コミュニティーカレッジでコーチを務め、イスラエル代表チームの監督に就任していたホルツ氏は、イエール大の右腕投手が気になった。その理由は速球だけではなかった。
「ブロドコウィッツという名前から彼がユダヤ系だと思った」とホルツ氏は言う。確かにブロドコウィッツ氏はユダヤ系だった。それはイスラエル国籍を取得する資格があるということであり、イスラエル代表チームの一員として五輪で野球ができるということを意味していた。
ホルツ氏はイエール大一塁手のベン・ワンガー氏もユダヤ系であることを知り、新たに代表チーム加わることになった2人に五輪に至るまでの複雑かつ困難な道のりを説明した。まずチームは欧州野球選手権Bプールで優勝し、本戦でも上位に食い込む必要がある。そこまで行けばアフリカ欧州予選に出場できるが、同予選から五輪に出られるのは1チームだけだ。
それだけではない。イスラエルはBプールから脱け出したことがなかった。
「完全にいちかばちかの挑戦だった」。MLBアリゾナ・ダイヤモンドバックスのフロントで働き、イスラエル代表チームのベンチコーチを務めるアレックス・ジェイコブズ氏はそう話した。
代表チームに加わるための最初の一歩であるイスラエル国籍の取得はすんなりいったが、本業を維持することのほうが大変だった。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのアナリストとして働くブロドコウィッツ氏は代表チームの予定を中心に生活を組み立て、休職はしなかった。休暇を使ったり、夜遅い時間や早朝に仕事を詰め込んだりしながら、2019年7月にはBプールの試合のためにブルガリアに遠征した。
ブロドコウィッツ氏がチームに貢献し始めるのに時間はかからなかった。イスラエル代表チームはブルガリア、ロシア、ギリシャ、セルビア、アイルランドに勝利し、ブロドコウィッツ氏はチーム最多の9.1回を投げ15三振を奪った(とはいっても防御率は5.79だが)。その後、リトアニアとのプレーオフでは初戦でブロドコウィッツ氏がさらに3回を投げてヒットを1本も許さずにセーブを挙げ、本戦進出に貢献した。
チームはそこまでは順当に勝ち進んだが、ドイツで行われる本戦では番狂わせを演じなければならない。しかし運と対戦相手からの援護でプレーオフに進出。イスラエルは4位に入り、アフリカ欧州予選への出場を決めた。
そこで誰も予想もしなかったことが起きた。イスラエルはオランダとイタリアに勝利し、五輪の1年近く前に出場権を手にした。
新型コロナウイルスの世界的流行で五輪は1年延期された。在宅で効率よく仕事ができるようになったブロドコウィッツ氏は上司の承認を得てアイダホに移り、独立リーグのチーム、アイダホフォールズ・チャカーズに加入した。代表チームで登録メンバー入りするには投げ続けていなければならない。
アイダホではピッチャーをしながら、本業の仕事を続けた。
午前5時半にはコンピューターの前に座り、午後はグラウンドに向かった。試合から帰るのはたいてい深夜だ。翌日も全く同じことを繰り返した。
ブロドコウィッツ氏は五輪代表の代替選手に選ばれた。登録メンバーに入れなかったとしても、大学のあるニューヘイブンからブルガリアのブラゴエブグラト、アイダホフォールズまでの道のりには文句なしにそれだけの価値があったと思っている。イスラエルは何とか五輪出場権を獲得したし、その間に学びもあった。
「時間管理という意味では貴重な経験だった」とブロドコウィッツ氏は語った。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/a-goldman-sachs-analyst-by-day-he-helped-pitch-israeli-baseball-into-the-olympics-11626709653
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