ハイブリッド勤務、給与や福利厚生どうする?
在宅組と出社組が混在、居住地に基づいて給与を支払うべきか
国によってスピードの差はあるが、コロナウィルスワクチンの普及が目に見えるようになってきた。
新型コロナウイルスの大流行が収束し、企業Xの従業員はオフィスに戻るか、リモートで仕事をするかを選ぶことになった。メアリーはニューヨークの本社に出社することにしたが、同僚のジョンはコロナの流行が始まってから暮らしているネブラスカ州オマハに残ることにした――。職場でこんな状況が起きたとしよう。
メアリーとジョンは肩書も仕事の内容も同じだ。さて、2人に同じ給料を支払うべきか。
米国の企業は一部の従業員がオフィス勤務に戻らない将来に備えて、給与や福利厚生のあり方について見直しを進めている。近い将来、冒頭のようなケースも含め、給与に関するさまざまな問題に取り組むことになりそうだ。
報酬コンサルティング会社コンペンセーション・アドバイザリー・パートナーズのパートナー、スーザン・シュローダー氏は「リモート勤務が定着する」と話す。同時に給与体系も変化するという。
南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスの名誉教授で、経営と組織が専門のジョン・ブードロー氏もこう指摘する。「われわれは(どのようなやり方が最善か)分からないこと、機会もバリエーションも広がることを認めなければならない」
ここでは、リモートワーク時代に見直しが必要になりそうな給与に関する戦略や問題の一部を検討する。
・居住地に基づく手当
新型コロナの流行前は、勤務するオフィスがニューヨークやサンフランシスコなど生活費が高い地域にある場合、多くの従業員が追加の手当を受け取っていた。しかしリモートワーク時代には、そうした考え方は当たり前ではなくなるかもしれない。
ニューヨークの1ドルはオマハの1ドルほどの価値はない。だから勤務地によって給与が変わるのは一見、公平なように見える。だが多くの専門家によれば、実はそうではないという。従業員の究極の価値は仕事の質であって、どの地域で仕事をするかではないからだ。
ペンシルベニア大学ウォートンスクールのピーター・カッペリ教授(経営学)は従業員が以前と同じ仕事を違う場所でしたら「なぜ価値が下がるのか」と指摘する。転居した従業員への支払いを削減するのは好ましくないとも話した。
シュローダー氏も、居住地と給与を連動させるのは危険だとみている。「仕事は同じなのに、どこに住んでいるかで給与を変えれば、賃金の公平性や公正、性差別の面でも後退しかねない」。居住地で給与に差をつける理由を適切に開示し、伝えなければ、企業の法的責任が問われる恐れがあるという。
・リモート勤務者が不利な仕組み
オフィスに出勤する従業員とリモートワークをする従業員が同じ都市に住んでいたとしても、給与や昇進に関する問題は起きる。ウォートンMBAスクールのカッペリ氏は、リモートで仕事をした場合、職場で上司と接することで得られるキャリア上の強みを失うと話す。
マーシャル・スクール・オブ・ビジネスのブードロー氏は、対面の付き合いの有無で、上司が無意識のうちにリモート勤務者よりオフィス勤務者に高い給料を支払うことにもなりかねないと話す。上司にこの問題を自覚させ、公平性を保つための対策を取るようにすることが重要だという。
リモート勤務者とオフィス勤務者に対して給与プロセスが同じように実施されるように、人事部門が給与に関する決定を今まで以上に入念に検討・確認する必要があるだろうとシュローダー氏は言う。
・個人に合わせた福利厚生
ジムやカフェテリア、職場内の託児所といった福利厚生はリモート勤務者にはあまり役に立たない。従って企業はより自由な、あるいは個人の必要に応じたサービスを新たに用意する必要があるかもしれない。
カッペリ氏によれば、例えば、リモート勤務者に一時金を支払い、人間工学に基づく椅子やスタンディングデスクなど、健康や安全を守るための製品を購入できるようにするという方法が考えられる。
育児に関するさまざまな選択肢や、同居する高齢の親の介護費用に対する補助は、リモート勤務者に歓迎されそうだとブードロー氏はみている。
シュローダー氏によれば、メンタルヘルスに関する福利厚生もこれまで以上に真剣に受け止められつつあり、通常は福利厚生計画の策定に関わることはない取締役会でも議論されている。企業はこうしたサービスについて、社内広報を強化し、従業員に利用を呼びかけているという。
・プロジェクトに基づくボーナス
シュローダー氏によれば、新型コロナの流行前は多くの企業が、個人や部門の目標と連動したプロジェクトベースのボーナスから、売上高の伸びや利益率など会社の目標に基づくボーナスに移行しつつあった。
それがリモートワークの増加とともに変わり始めたという。チームワークを促進するため、企業は再び、個別のプロジェクトの目標を達成することで個人に報酬を支払う「プロジェクト指標」を奨励し始めた。
カナダのクイーンズ大学スミス・スクール・オブ・ビジネスのエリカ・ピメンテル助教授はこれを仕事の「起業化」と呼び、従業員と会社の関係が変わる可能性があると話す。
ピメンテル氏によると、仕事が起業化すると、従業員は会社のために常にプロジェクトに取り組む「起業家精神にあふれるコンサルタント」のようになる。「週に40時間を埋めるのではなく、決まった仕事があって、それを終えればもしかしたらボーナスがもらえる」という働き方だ。
重要なのは仕事の質であり、どこで仕事をするかにかかわらず、報酬は仕事の質に対して支払われるべきだとピメンテル氏は述べた。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/pay-benefits-hybrid-workplace-11623518403?mod=searchresults_pos1&page=1
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