忘れてはならない投資銀行事業に潜むリスク
投資銀行は2020年に多額の利益で潤ったが、今年は第1四半期末を前に思わぬ損失に見舞われそうだ。
クレディ・スイス・グループと野村ホールディングスは3月29日、米国の顧客との取引で多額の損害が生じる可能性があると明らかにした。顧客はタイガー・アジアの元運用担当者ビル・ホワン氏が設立したヘッジファンド、アルケゴス・キャピタル・マネジメントとみられている。野村は同社へのエクスポージャーが推定で約20億ドル(約2190億円)に上ると述べる一方、クレディ・スイスは損失額について「数字で示すには時期尚早」としている。両社の株価は発表後にそれぞれ10%超急落した。
先週後半、米モルガン・スタンレーや米ゴールドマン・サックス・グループ、ドイツ銀行などから大口の売りが出され、どこかのヘッジファンドが破たんしたのではないかとの見方が広がった。アルケゴスのポジションがすべて解消されたかどうかはわからないため、投資家は影響の拡大に備える必要がある。アルケゴスとの関係がささやかれる他の金融機関の株価も、29日午前の取引で軟調に推移している。
20年には相場変動の大きさが投資銀行業務の追い風となり、多くのグローバルバンクが好決算を謳歌した。それから日の浅いうちに明らかになった今回の出来事は、各社の巨額利益にひそむリスクを浮き彫りにするものとなった。08年の金融危機で明らかになったように、投資銀行業務におけるコストは、ずっと後になって発生する可能性もある。
クレディ・スイスは、今月起きた英グリーンシルの破綻による影響の全容をいまだ把握しきれていない。サプライチェーン・ファイナンスを手掛けるグリーンシルは、クレディ・スイスが同社のファンドとの取引を凍結するとまもなく破綻を申請した。
株主は投資銀行業務がハイリスク・ハイリターンのビジネスであることを理解している。クレディ・スイスが20年10-12月期に稼いだ巨額のトレーディング収入は、2件の一時的損失で吹き飛んだ。1件は08年の金融危機以前に行っていた問題のある証券販売に絡む訴訟費用8億5000万ドル、もう1件は10年に取得したヘッジファンド、ヨーク・キャピタル・マネジメントの持ち分の評価損4億5000万ドルだ。
昨年2月にCEOに任命されたばかりのトマス・ゴットシュタイン氏にとっては、大変な1年となった。前任のティージャン・ティアム氏は社員を内偵していた不祥事が発覚して辞任に追い込まれ、ベテランのゴットシュタイン氏がかじ取りを託されたものの、期待されていたような再出発とはほど遠い滑り出しとなった。
10年前に規制当局が銀行に対する資本規制を大幅に引き上げたことが、各行の株主資本利益率(ROE)が低い一因ではある。クレディ・スイスの普通株式等ティア1(CET1)比率は12.9%あるため、今回の損失は十分に吸収できるだろう。アルケゴスの一件から教訓を引き出すとすれば、利益を圧迫するこのようなバッファーが必要な理由はまさにそこにある、ということだ。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/unraveling-archegos-fund-shows-risks-of-investment-banking-11617018226
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