「クラブハウス」に迫る競争、音声SNSに熱視線
フェイスブックやツイッターでも音声機能追加の動き
「クラブハウス」に代表される音声SNSアプリが人気を集めている。その原動力は「他人の生の声が聞ける」というシンプルな魅力だ。
音声会話を特徴とする新興ソーシャルメディアが多額の投資を引きつける一方、SNS大手も独自の音声チャット機能の開発を模索する。ハリウッドや政界、ハイテク業界の大物の会話を直接聞くことができるクラブハウスが、業界を大きく揺るがす存在となっている。
クラブハウスは創業から1年足らずの今年1月、資金調達ラウンドでベンチャーキャピタル会社アンドリーセン・ホロウィッツなどの投資家から1億ドル(104億8000万円)を確保。企業価値を10億ドルと評価された。アプリ調査会社センサー・タワーによると、招待制の同アプリの月間ダウンロード回数は昨年9月の2000回から先月には240万回に急増した。
競争も迫っている。フェイスブックは音声版ソーシャルメディア機能の開発に向けた初期段階にある。ツイッターの広報担当者によると、同社はツイートの音声機能を追加したほか、「スペース(Spaces)」と呼ばれる別の音声チャットルームをテストしている。起業家で有力投資家のマーク・キューバン氏は、「ファイアサイド」と呼ばれる音声特化型ソーシャルプラットフォームの開発に関わっている。ファイアサイドはクラブハウスと競合するもので、計画に詳しい関係筋によると、今年導入される見通しだ。
新たな音声SNSアプリは著名人だけでなく、聴衆を求めるパフォーマー、助言を求めるスタートアップ創業者、仲間を探すゲーマーなど、さまざまなユーザーを引きつけている。一方で、陰謀説を拡散して他のプラットフォームから追放されたユーザーや支持集めを狙う政治家、新型コロナウイルス禍で新たな交流方法を探る人々も集まっている。
ポッドキャストの浸透や「ズーム疲れ」も重なり、クラブハウスのような音声アプリがここにきて特に脚光を集めている。ハイテク業界アナリスト、ジェレマイア・オウヤン氏は音声について、文字ほど人間味のない存在ではなく、動画ほど立ち入った印象を与えない、ちょうどいいあんばいの「ゴルディロックス」媒体だと指摘する。
クラブハウスをよく利用するというオウヤン氏は、新型コロナウイルス禍で人々が社会的なつながりを求める中で、音声アプリは急成長したと指摘する。また生の会話は文字のチャットよりも相手への共感を促すという。同氏は新たな音声ソーシャルメディア企業を追っており、対象リストにはチョークが手掛けるセキュリティーを強化した音声チャットアプリや、スポーツファンのライブ会話が聞けるロッカールームなどが含まれる。
チャットルームアプリのディスコードは当初、ゲーム好きに人気があったが、過去1年で幅広いユーザーに浸透した。昨年6月に1億ドルを調達したラウンドでは35億ドルの評価額を得ていた。その半年後さらに1億ドルを調達した際には、評価額が70億ドルと倍増した。同社はコロナ禍の初期にあたる昨春、米国で音声機能のデーリーユーザー数が50%の伸びを記録したと明らかにしていた。
ソーシャルメディアで新たなトレンドが生まれる中、業界大手フェイスブックは、反競争的な行為で競合つぶしを行っているとして、規制当局からにらまれている。同社には、競合勢と似た新機能を追加してきた歴史がある。例えば、メッセージアプリ「スナップチャット」や動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」とほぼうり二つの機能をこれまでに加えている。
フェイスブックの広報担当者は、クラブハウスに対抗するサービスの投入には近づいていないが、音声ソーシャル機能については検討していると述べた。米紙ニューヨーク・タイムズはこれに先立ち、同社がクラブハウスに似た音声チャットサービス開発で初期段階にあると報じていた。
新興SNS企業は、自社製品をまねされる脅威に対処する一方、デジタル広告支出の大半がフェイスブックとアルファベットに流れる業界において、事業モデルを確立する必要もある。スナップチャットを運営するスナップは直近の四半期決算で、約5年ぶりの高い伸びを示したものの、なお赤字から抜け出せていない。
クラブハウスの創業者らは先頃、パフォーマーへの「投げ銭」や有料イベント、特別コンテンツにアクセスできる会員制などの選択肢を検討していると明らかにしている。
クラブハウスは有料機能のビジネスモデル構築に成功するかもしれない。招待制の参加が「特別感」をもたらすためだ。またフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、テスラのイーロン・マスクCEO、女優リンジー・ローハン、トランプ陣営の元選対責任者ブラッド・パースケール氏ら著名人の登場も、有料ビジネスを後押ししそうだ。
マスク氏が先月クラブハウスに登場したことは、中国のユーザー急増に一役買った。同国でタブーである話題について自由に議論できる貴重な場になったが、中国当局は今週クラブハウスへのアクセスを遮断したとみられる。
ただ、ハイテク業界幹部の間では、音声アプリ人気の持続性を巡り懐疑的な見方も出ている。会話の長さや質に関してほとんど対策がなく、つまらない会話を排除する方策もないためだ。
クラブハウスの成長の陰には、アンドリーセン・ホロウィッツの存在もある。同社のパートナーらが初期から積極的に利用し、話題を広めた。
ソーシャルメディア業界では長らく大ヒットが生まれておらず、次なる新星を発掘することは投資家にとっては妙味が大きい。
ハイテク投資家でライドシェア大手ウーバーテクノロジーズの元幹部、ライアン・グレーブス氏は「『ツイッター』や『インスタグラム』のような存在を(しばらく)目にしていない」と話す。クラブハウスは「ソーシャルメディア版のポッドキャスト」のような印象だという。
あらゆるオンラインコミュニティーについて言えることだが、悪質コンテンツ対策も課題となる。ライブ音声は文字や画像よりも対策を講じることが難しく、クラブハウスなど音声アプリが嫌がらせや虐待に悪用されかねないとの懸念もくすぶる。ツイッターユーザーを悪質コンテンツから守ることを目指すベンチャー出資のアプリ「ブロック・パーティー」のCEOを務めるトレーシー・チョウ氏はこう指摘する。「クラブハウスは十分な保護策を導入しないまま、積極的な成長路線をまい進しており、多くの問題について熟慮していないと思われる」
クラブハウスには、アプリを通じて研修を受けたモデレーター(議論の管理者)が存在し、制御不能に陥った会話を打ち切ったり、悪質な話し手を報告したりする権限を有している。だが、モデレーターの質とやり方には個人差がある。クラブハウスはこれまで、反ユダヤ主義、女性蔑視といったコンテンツで批判を浴びた経緯があるほか、ユーザーからは偽アカウントの苦情も出ている。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/clubhouse-and-social-audio-apps-are-having-a-momentis-it-all-talk-11613039404?mod=searchresults_pos1&page=1
おすすめ記事
- 1
-
独立社外取締役(コーポレートガバナンス・コード)について
コーポレートガバナンス・コード 2014年6月にとりまとめられた「『日本再興戦略 ...
- 2
-
独立社外取締役(コーポレートガバナンス・コード)の独立性基準について
独立社外取締役(コーポレートガバナンス・コード)の独立性基準 2014年6月にと ...
- 3
-
これまでの社外取締役/社外監査役の属性・兼任等の状況と、今後の 独立社外取締役(東証ベース)の選任についての調査・考察
株式会社コトラによる社外役員実態報告について 人材ソリューションカンパニーの株式 ...
- 4
-
職場の同僚と理解し合えないのは性格の不一致~人間関係に現れる価値観のちがい 組織理解vs他者理解~
職場の人間関係におけるアプローチについて、価値観の多様性から考えてみます。 相 ...
- 5
-
バブル体験の有無が価値観の差~70年代生まれと80年代生まれの価値観にみる世代ギャップ~
上司が、部下に的確に仕事をしてもらうために知っておくべきこと 「今の若いものは、 ...