コロナによる「燃え尽き」を阻止する米企業の工夫
日本は米国ほど厳しいロックダウンに遭遇しているわけではないが、職種によっては半年以上在宅勤務という人もいるだろう。今までにない従業員の心のケアが必要と感じている会社もあるのではないだろうか。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まって数カ月後、米オンラインチケットサービス会社イベントブライトのエンジニアリング・ディレクターを務めるニック・ポポフ氏は全従業員参加のビデオ会議でなりふり構わず本音を打ち明けた。自分は疲弊しきっていると。
ポポフ氏は何日も家を出ないことがたびたびあり、その間もビジネスチャット「Slack(スラック)」の通知音が鳴り続けていたと話す。友人や同僚に直接会いたくて仕方がなく、カリフォルニア北部のセコイアの森の中を妻とハイキングしても、元気が戻ることはなかった。
「燃え尽き症候群は知らぬ間に進行する」とポポフ氏は話す。「非常にゆっくりと忍び寄るため、不意打ちを食らうことがある」
ポポフ氏が会議でそうした体験を語ると、自分も同じだと名乗り出る同僚が相次いだ。コロナが猛威を振るう中での仕事や生活に彼らも疲れ果てていた。ポポフ氏は他の従業員のために「燃え尽きを理解する」セッションを主催し始め、それぞれの感情を吐露したり、メンタルヘルス専門家の助言を聞いたりするオンラインの場を提供した。
この取り組みは、米企業で進行中の多くの実験の1つだ。上司はビデオ会議システム「Zoom」等を通して部下の顔を眺めては心配しているが、感染流行の出口が見えない中、多くのリモートワーカーはふさぎ込み、うんざりし、次に何が起きるのか不安だと訴えるとマネジャーらは話す。企業はそれに応じた対策を講じ、従業員の不安を払拭(ふっしょく)する支援制度を急ぎ導入している。
カウンセリングを提供するなどの一般的な方法だけでなく、多くの企業は他のアプローチも試している。IT大手ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)のアントニオ・ネリ最高経営責任者(CEO)は管理職が電話を掛け、部下が健全な状態にあるかどうかチェックするよう促している。「そうした努力を払う必要がある」と同氏は言う。「メールで十分だと思い込んではいけない。メールだけでは親しみを感じるのが難しいからだ」
コンサルティング会社アクセンチュアの北米CEO、ジミー・エスリッジ氏は最近、直属の部下27人に2時間半のオンライン研修を受けるよう求めた。心の健康に問題を抱える同僚をどう支援すべきかがテーマだった。コンサルタントは職業柄、問題解決の方向を示そうとするが、この研修で強調されたのは、時には何の判断も示さずに注意深く話を聞くことが最も役に立つということだ。
「相手の話を聞いているということを明確に示し」、もし必要ならば、追加的手段を利用できるよう導けばよい、とエスリッジ氏は語った。
解決策は必ずしも複雑で費用のかかる方法でなくてもよいと企業幹部は話す。イベントブライトは先頃、リーダー研修の内容を修正し、在宅勤務の続く従業員に対していかに共感を持って接するべきかに照準を合わせた。デービッド・ハンラハン最高人事責任者は、リーダーが部下と1対1の会話を始める際、本物の感情を引き出すシンプルな声かけをするよう指導していると話す。「最近調子はどう?」の一言に続いてすぐ仕事の話に移るのではなく、例えば「最近調子はどう? 実際のところ、正直に聞かせて」などと問うのだ。質問の後、たとえ沈黙が気まずくても、少し間を置いてみる。催促に応じて、従業員は仕事の課題や個人的問題について本音を語り出すかもしれない。「これはマネジャーが使えるシンプルな技術だ」と同氏は言う。「真の共感であり、真のケアだ」
コロナの時代に従業員の士気を高める方法にも各企業は工夫を凝らす。シアトルの建設会社マッキンストリーでは、「グッドニュース・フライデー」と名づけた社内メモを毎週発行し、顧客の喜びの声や、会社が最近獲得した新規事業などを積極的に伝えている。ホテル運営大手ヒルトンのマシュー・スカイラー最高総務責任者(CAO)は、公園など屋外の場所からZoomのビデオ会議に参加することを認めるようマネジャーや各チームに促している。
従業員をパソコンから離れさせることに知恵を絞る企業も多い。オハイオ州の広報会社ゲブン・コミュニケーションは数カ月前から「セルフケア・デー」と銘打ち、仕事関連のインターネット接続を断絶する日を設けている。キャッシュバックアプリを運営するテキサス州の企業ドッシュでは、臨時の週休3日制を取り入れている。木曜の全社員ミーティングで時折、翌日を就労禁止の「ドッシュ・デー」にすると突如発表するという。
マネジャーらは警戒を怠らないことがカギだと話す。イベントブライトのポポフ氏は終業時刻を過ぎても働いていると思われる従業員を注意深く見守り、翌日そうした作業は必要ないと説明することにしている。
助けが必要だとサインを出す仕組みを導入した例もある。パソコン大手デルの社内業務担当シニアバイスプレジデント、ジェニファー・デービス氏は、チーム内でメンバーが「境界ラインの上」(自分は大丈夫で、手を貸すことが可能)なのか「境界ラインの下」(支援を必要としている)なのかを同僚に知らせるようにしたと話す。これなら個人的な事情を明かさずとも、他人に今の状態を伝えられる。「誰も質問はしない。ただ『了解。何をすればいい?』と言うだけ」とデービス氏は言う。
具体的な対策
以下、従業員の「燃え尽き」を防ぐために米国の企業は具体的に何を行っているか、まとめてみた。
・従業員が休みを取るよう促す。一部の企業は「セルフケア・デー」を設けたり、終業時刻を数時間早めたりしている。
・カウンセリングやメンタルケアのサービスを受ける機会を増やす。カウンセリング・アプリを提供する企業や、従業員を支援するコーディネーターを紹介する例などがある。
・個々の従業員が健全な状態にあるかをチェックする。メールではなく電話を掛けるなど、シンプルな行動が大きな効果を生む。
・共感を持って接することができるようマネジャーを訓練する。コロナの中で部下を管理するのは全く新しいスキルであり、従業員の精神面の幸福を支援するようなガイダンスが役立つ。
・従業員が本音を共有できるような会話術を磨く。「最近調子はどう?」だけでは不十分で、相手の真の状況を感じ取れるような質問をする。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/companies-offer-creative-solutions-to-worker-burnout-during-the-pandemic-11604836834?mod=searchresults_pos1&page=1
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