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欧米初承認のコロナワクチン、医師夫婦の情熱が開花

 

2021年は例年以上に見通しの難しい年だ。人々の生活や経済活動が普段通りに戻れるかどうかは、新型コロナウイルスワクチンの普及にかかっている。2020年12月より欧米で承認され投与の始まったワクチン開発の歴史と舞台裏を紹介したい。

欧米で初の承認を受けた新型コロナウイルスワクチンの始まりは、ドイツの地方で若い2人の医師が新たながん治療薬を開発すると誓いを立てた30年前にさかのぼる。トルコ移民の両親を持つワクチン開発者2人は、恋に落ちたばかりだった。

ドイツのバイオテクノロジー企業ビオンテックと米国のファイザーは10カ月かけて対新型コロナワクチンを共同開発した。12月2日に英国で緊急使用の承認を受け、これまでのワクチン開発の最短記録を3年以上も縮めることとなった。 

だが、ビオンテックを創業したウグル・サヒン博士と妻のオズレム・トゥレシ博士にとってそれは、昨年冬に新型コロナ感染が広がるずっと前に始まった30年間に及ぶ努力の成果だった。

感染が広がる以前、サヒン氏は長年にわたりメッセンジャーRNA(mRNA)を研究していた。mRNAは人体に投与することで、ウイルスなどの脅威に対する防御を促す。サヒン氏は昨年1月、欧州で初の感染患者が確認される何日も前に、この知識を使って自宅のコンピューターでワクチンの一種を設計した。

サヒン氏は1965年、トルコの地中海沿岸にあるイスケンデルンで生まれ、4歳のころにドイツに移住した。外国人労働者の手を借りて戦後のドイツを復興させる政策の一環で、父親がケルン近郊にあるフォード自動車工場に採用されたためだ。

それとほぼ同じ頃、トゥレシ氏の父親もドイツへ移住した。小さな街ラストラップにあるカトリック病院で外科医として働くためで、トゥレシ氏は父の患者を世話する修道女たちに感化されながら育った。自身も修道女になることを考えたが、父と同じ道を歩んだ。

サヒン氏とトゥレシ氏はmRNA研究への取り組みについて、化学療法が効かなくなった患者に選択肢がないことに、若い医師として感じたフラストレーションが原動力になったと語っている。

2人は1990年代にホンブルク大学病院で出会った当時、「標準的な治療では、患者に提供できるものがあっという間になくなることに気がついた」とトゥレシ氏は言う。「それは将来を決定づける経験だった」

2人は2001年、抗体療法を開発するため最初の会社ガニメド・ファーマシューティカルズを創業。トゥレシ氏が最高経営責任者(CEO)、サヒン氏が研究責任者に就いた。トゥレシ氏は「会社設立の動機になったのは科学と生存のギャップを埋めることだった。われわれは研究によって解決策を見いだしたが、それを患者のいる病床へ持ち込むことができなかった」

サヒン氏とトゥレシ氏は2002年のある日、ランチタイムに研究室を出て登記所へ向かった。再び白衣を着て仕事に戻るまでに、2人は婚姻届を出し終えていた。

夫妻にとって当初から最も大切な支援者となったのはアンドレアス・シュトルングマン氏とトーマス・シュトルングマン氏だ。両氏は双子の兄弟で、富豪の投資家でもある。2001年以降、夫妻の企業に2億ユーロ(約250億円)余りを投じている。

シュトルングマン家のファミリーオフィスのマネジャーであるヘルムート・ジェグル氏は、「ウグル(サヒン氏)はわれわれに未来を示すビジョナリーで、オズレム(トゥレシ氏)はそこへどう到達するかを示してくれる」と語る。ジェグル氏はビオンテック監査役会の会長も務めている。シュトルングマン兄弟は2人の科学者に対し、戦略面の幅広い裁量権を快く与えているという。

サヒン、トゥレシ両氏は2008年、抗体療法からmRNAへ研究領域を広げるため、ビオンテックを創業した。2016年にガニメドを14億ドル(約1500億円)で売却し、その売却益を新たなベンチャーであるビオンテックに再投資して以降、両氏はビオンテックに専念している。

ビオンテックでは財務とセールス部門責任者も含め、取締役の全員が科学者だ。サヒンCEOは今も地元の大学で教壇に立ち、博士課程の学生を担当している。時には採用を念頭に置くこともある。

ビオンテックのチームは半数が女性で、科学者の国籍は60カ国にわたる。ペンシルベニア大学医学部のカタリン・カリコ教授(生物化学)のようなmRNAの権威も加わっている。

ハンガリー人のカリコ氏は「バイオテク企業のCEOの多くはセールスマンだが、ウグルは科学者。ここでは科学が優れていると納得させられた」と話した。「われわれの製品には青写真がない。これまで誰もやったことがないものだ」

昨年1月25日の土曜日、サヒン氏はある論文を読み、中国で発生した原因不明の病気が間もなく世界を巻き込むと確信したという。すぐにコンピューターに向かい、新型コロナワクチン候補10種のテンプレートを設計した。その一つが、12月2日に英国で承認されたワクチン「BNT162b2」となる。

サヒン氏はその日のうちに、ビオンテックはウイルスとの闘いに軸足を移すとジェグル氏に伝えた。ウイルスにはまだ名称もなく、欧州では診断例もなかった。

サヒン氏と2001年から共に仕事をしてきたジェグル氏は、「驚いた、大げさではなく」と言う。「われわれには自由に使える資本はあまりなく、がんの研究で手一杯だった」

サヒン氏は、1968 年から69年に400万人もの命を奪った香港インフルエンザを引き合いに出した。それから2時間後、ジェグル氏は譲歩した。

週明けの月曜、サヒン氏は従業員を7日間のシフトに再編成し、中心を担う従業員には休暇をキャンセルして公共交通機関の利用もやめるように求めた。サヒン氏が「光速プロジェクト」と名付けたこの取り組みは、それまで何年もかかっていたワクチン開発を数カ月で成し遂げることになる。

2020年2月――サヒン氏はワクチンの効果を顕微鏡で観察していた。一緒にいた2人の従業員と写真に収まり、「われわれのワクチン候補が誕生したと思う」と宣言した。

ビオンテックは既に、mRNA技術に基づくインフルエンザワクチンをファイザーと共同開発していた。そのため、大陸をまたいで臨床試験を組織し、世界的に製造したり欧米で配送を支援したりする提携企業が必要になった際、誰に頼るべきかサヒン氏は分かっていた。両社は3月に提携契約を結び、4月にはヒト臨床試験が開始された。

モルガン・スタンレーの推計によると、ワクチンによってファイザーとビオンテックに130億ドル以上の売上高がもたらされる可能性がある。あらゆる利益を再投資するとサヒン氏は述べている。同氏の狙いはぶれていない。mRNAベースなど革新的ながん治療薬を上市することだ。現在11種が臨床試験の段階にある。

多くの科学者はなお、その可能性に懐疑的だ。オックスフォード大学の後期博士課程でmRNAを専門とするトーマス・C・ロバーツ氏は、ワクチン治験の結果には心が躍るが、ワクチンを超えたmRNAの応用は重要な課題に直面するとみている。

サヒン氏の見方は異なる。ワクチンの承認によって自らの技術が立証され、「全く新しい医薬品分野の先駆けとなる」と語った。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/how-a-couples-quest-to-cure-cancer-led-to-the-wests-first-covid-19-vaccine-11606905001?mod=searchresults_pos3&page=1

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