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セールスフォース、スラック買収でMSに真っ向勝負

 

在宅勤務の普及で協業ツール市場の競争に拍車

顧客関係管理(CRM)システムを手掛ける米セールスフォース・ドット・コムは長年、ニッチなビジネスソフトウエア会社として成功を収め、マーク・ベニオフCEOは自らを米ビジネス界の代弁者と位置づけてきた。

 ベニオフ氏は今、さらなる高みを目指して前進し、業界最大手マイクロソフトとの争いを一段とヒートアップさせている。

 セールスフォースは、企業向けコミュニケーションツールを手掛ける米スラック・テクノロジーズを買収する方向で交渉を進めている。これはベニオフ氏にとって過去最大の買収になる見込みで、マイクロソフトが成長に不可欠とみなす企業向けコミュニケーションツール市場でセールスフォースがこれほど真っ向から勝負を仕掛けるのは初めてだ。

 買収は破談になる可能性もまだあるが、実現すればセールスフォースの野心の達成を加速させることになる。同社は、データ分析から顧客関係管理、日々のコミュニケーションに至るまで企業のあらゆる業務に使用可能な頼れるソフトウエアプラットフォームになることを目指している。

新型コロナウイルスのパンデミックは同社の取り組みを拡大させた。コロナが流行し始めると、ベニオフ氏はすぐに「Work.com(ワーク・ドット・コム)」を投入した。これは、企業が接触追跡やメンタルヘルスチェック、シフトスケジュール管理などに使えるアプリケーションパッケージだ。

 スラック買収はセールスフォースとマイクロソフトの競争を激化させる可能性がある。マイクロソフトは約5年前、セールスフォース買収に向けて協議したが、価格を巡って交渉は物別れに終わった。2016年にはビジネス向けソーシャルメディア(SNS)運営リンクトインの買収合戦でセールスフォースがマイクロソフトに負けた。この敗戦は痛手だった。セールスフォースは反トラスト法(独占禁止法)を根拠にマイクロソフトのリンクトイン買収提案を調査するよう規制当局に求めたが、買収計画は当局の審査を通過した。

マイクロソフトは2016年に一度、上場前のスラックの買収を80億ドルで検討したが、マイクロソフトのCEOの反対により見送った経緯がある。スラック獲得を断念したマイクロソフトは、独自の協業ツール「Teams」を開発し、時に白熱していた両社の争いに拍車をかけた。

 「マイクロソフトらはわれわれを殺したがっている」。スラックのスチュワート・バターフィールドCEOは今年こう語った。スラックは今夏、マイクロソフトがその独占的地位を利用してチームズを売り込み、反トラスト法に違反しているとして、欧州連合(EU)に苦情を申し立てた。

 投資銀行ジェフリーズのアナリスト、ブレント・ティル氏は、スラックによって「セールスフォースが目指す事業の規模を拡大できる」と指摘。「営業システムは誰もが使うわけではないが、協業システムは誰もが使える。スラックとチームズの良さは、企業内のあらゆる業務に関係していることだ」と述べた。

ベニオフ氏は21年前にセールスフォースを共同創設して以来、数々の買収を手掛け、当時まだ誕生したばかりの、ソフトウエアをクラウド上で提供する「ソフトウエア・アズ・ア・サービス(SaaS)」市場で最も成功した企業の1つへと同社を成長させた。セールスフォースは昨年、データ分析プラットフォーム大手タブロー・ソフトウエアを約150億ドル(約1兆5630億円)で株式交換を通じて買収。これは同社史上最大の買収となった。

 2018年には、業務アプリケーションを連携する統合プラットフォームを提供する米ミュールソフトに50億ドル超の大枚をはたいた。さらに今年、クラウドソフトウエア会社ブロシティを買収することを明らかにした。

 ベニオフ氏は長年、シリコンバレーで最も著名な歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで知られる経営者の1人であり、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)などの場を利用して企業の大義を提唱してきた。セールスフォースに会社のリソースの一部を慈善事業に寄付する制度を設けたり、2年前にタイム誌を買収し、意見を発信するための大きな「演壇」を自ら購入したりしている。

 セールスフォースは新興の人工知能(AI)分野にも積極的に参入し、顧客が自社データを有効活用するためのツールを開発している。2016年には、機械学習アプリ開発用ソフトウエアを手掛けるプレディクションIOを買収。その前年にも、やはり機械学習を手掛けるミンハッシュとテンポAIの2社を獲得しているほか、2014年にも同分野のリレートIQを買収している。

 協業ツール市場への本格的な進出は、セールスフォースの長年の課題だった。2010年には企業の協業向け非公開SNS「Chatter(チャッター)」を立ち上げ、2016年にはクラウドベースの書類共有アプリを運営するクイップを5億ドル超で買収した。しかし、いずれの製品も普及には至らなかった。セールスフォースは過去にもスラックの買収を模索しており、同社を獲得できれば、協業ツール市場ですぐに大手の仲間入りを果たせる。スラックの有料顧客は13万を超える。

 セールスフォースがスラック買収を画策する背景には、同社の中核事業であるCRMソフト市場で競争が激化していることがあるとみられる。アドビは今月、販促用プラットフォームを開発するワークフロントを15億ドルで買収した。マイクロソフトも競合製品「Dynamics(ダイナミクス)」で攻勢をかけている。調査会社ガートナーによると、2019年の世界市場シェアはセールスフォースが20.1%と依然として首位に立っており、マイクロソフトのダイナミクスは2.6%となっている。

 たとえスラックを手に入れても、セールスフォースはマイクロソフトにとって比較的小さなライバルにとどまる。マイクロソフトの直近年度の売上高は1430億ドルに上る。それには企業向けソフトウエア、クラウド・コンピューティング・インフラ、コロナ特需で爆発的な売れ行きとなったゲームをはじめとする個人消費者向け事業が含まれる。同社の年間売上高はセールスフォースの約8倍だ。また、時価総額は1兆6000億ドルを超え、スラックとセールスフォースの時価総額合算の約6倍となっている。

 セールスフォースは昨年、年間売上高を2023年度には280億ドルに到達させることを目指すと述べた。直近年度の売上高は171億ドルだった。

 調査会社バーンスタイン・リサーチの上級調査アナリスト、マーク・モードラー氏は「彼(ベニオフ氏)は成長を持続させる必要がある」とし、「さらなる大型買収が必要だ。スラックは彼に大型買収と売り上げをもたらしてくれる」と述べた。

スラックも訴求力の拡大を目指している。スラックは主に社内コミュニケーションに使用されているが、同社は6月、社外の人ともメッセージをやり取りできる機能「Slack Connect(スラック・コネクト)」を導入した。バターフィールドCEOは、この機能が有料顧客の増加を促しており、成長の起爆剤になるはずだと述べた。

 しかし当然ながら、大型買収計画には落とし穴がつきものだ。セールスフォースが2016年にツイッターを買収しようとした際、ベニオフ氏は投資家から大きな反発を受け、手を引くことになった。スラックはツイッターよりもセールスフォースの主力事業に近いが、それでも相当な買収額になるはずだ。スラックの時価総額は11月25日の急騰前に既に170億ドルとなっていた。

 「投資家はセールスフォースに大型買収を望んでいない」とジェフリーズのティル氏は述べ、彼らが求めているのは現在ある事業から成長を生み出すことだと指摘した。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/with-slack-salesforce-would-put-heat-on-microsoft-11606418952?mod=searchresults_pos1&page=1

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