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河野行革担当相 vs. FAX- ローテク巡る戦い

 

河野太郎氏(57)は以前は外相として、後に防衛大臣として、中国の軍事的台頭や予測不能な米大統領の動きなど、日本にとって重大な外交課題を担ってきた。そして今、行革担当大臣として行政改革の旗手を任された同氏に一つのミッションが立ちはだかっている。ハンコやプリンター、FAXに打ち勝つことだ。

 ハンコによる押印は数千年前から日本に根付く伝統的決済方法だが、9月に就任した菅義偉首相(71)によれば、これらは成長の妨げとなっている。菅氏は行革担当相に任命した河野氏にこの伝統的決済方法をDXするという、新たな任務を与えた。

 電子メールが普及して四半世紀がたつものの、河野氏がトップを務める組織を含め日本の官公庁の多くはいまだに手で触れることのできる紙の書類を好む。日常的なやりとりはFAXで行うよう求め、政府の書式には押印して提出するよう義務付けている。

 「なぜ何でもかんでもプリントアウトする必要があるのか」と、河野氏は行革担当相に就任して間もない記者会見で述べた。多くの場合は単にハンコが必要だからだが、そうした文化をやめることができればプリントアウトもFAXも自然となくなるとの見方を示した。

「自身の仕事はデジタル革新を担うデジタル業界のフェラーリやポルシェが道路を疾走できるよう障害を取り除くことだ」と同氏は述べている。

 河野氏が所属する自民党内では、ハンコによる押印文化を守ろうとする輩もいる。ある議員連盟は最近、署名の代わりに押印する日本の文化は河野氏による「拙速で行き過ぎた」動きによって危機にさらされていると警鐘を鳴らす書簡――もちろん紙の文書で――を政府に提出した。

 日本政府は「世界最先端IT国家創造宣言」を打ち出し本部を設立するなど、長年にわたりデジタル化を推進してきた。

 だが状況はあまり変わっていない。スイスのビジネススクール「IMD」によると、世界のデジタル競争力ランキングで日本は今年27位と昨年から4つ順位を落とし、マレーシアやニュージーランドよりも下位だった。

 河野氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の質問に対し、デジタル化で日本が進歩を遂げることは極めて重要であり、行革担当相として「非常に重い責任」を感じると述べた。

 とりわけ至る所にあるFAXは、日々のビジネス慣習が日本のハイテクなイメージといかに対照的であるかを象徴している。FAXはドイツのほか、弁護士や医師のオフィスなどプライバシーに敏感な米国経済の一部において使用されているが、FAXを受信する甲高い音を魅力的だと感じる国はほとんどない。

 ある著名女優が最近結婚を発表した際、所属事務所はメディアにFAXで対応した。同事務所の広報担当者はFAXの使用をやめる予定はないと述べた。別の大手芸能事務所はFAXに関するそうした質問をFAXで送るよう求めた。

 新型コロナウイルス感染が拡大し始めたころ、一部の保健当局はコロナに関する情報をまだ紙の書式に書き、FAXで厚生労働省に上げていた。当時、河野氏は防衛相だったが、これに横やりを入れた。4月23日、同氏はこうしたやり方について不満を述べた医師のツイート投稿をIT担当の平将明内閣府副大臣に向けてリツイートし、注意を促した。平副大臣は対処すると述べ、1週間後に厚労省はコロナ感染者をオンラインで届け出ることができる新システムを発表した。

成功例はそう簡単に続かないかもしれない。日本は中小企業が大半を占めており、テクノロジーに充てる予算はわずかであり、慣れ親しんでいるものを好む。

 名古屋市で家具店を営む小木曽孝行さん(36)はFAXについて、「代替がきかないサービス」と語る。職人の多くは高齢で、メールは使わないという。FAXは信頼でき、物理的な存在感が好きだとし、「目の前に紙がこれだけあれば、それだけやらなくてはいけない仕事がある」ということだと話した。

 それでもコロナ禍は河野氏にとって追い風だ。在宅勤務の増加でビデオ会議システム「Zoom」などのデジタルツールを使って同僚と話すほかないからだ。

 米ジョージタウン大学出身の河野氏は、将来の首相候補としてしばしば名前が挙がる。首相になることは1996年に初当選して以来、抱き続ける最終的な目標だとして、その野望を認めている。

 9月に安倍晋三氏から首相の座を引き継いだ管氏は、行政の抜本改革を最優先課題と宣言し、河野氏を行革担当相に任命した。

「全て河野大臣のところでまとめて対応する」と、管氏は首相就任後の初会見で述べた。

 河野氏はすでに大胆な行動を取る傾向を示している。防衛相時代、米国から巨額のミサイル防衛システムを購入する契約を代替案もなく破棄した。同氏はまた、ツイッターを積極的に活用する日本では数少ない政治家の一人だ。同僚のオフィスにあるブラウン管テレビや稼働時間外の電子メールには100%自動返信で返すというある在外日本大使館の方針といった時代遅れなものについて皮肉たっぷりに述べている。

 最近の同氏のツイッター投稿では、テクノロジーの進化に思いをはせ、詩に挑んでいる。ただ、FAXについてのツイートはなかった。「チャンネルは回さず、ダイヤルも回さず、ビデオは巻き戻さず、レンジはチンせず、蛍光灯は紐引っ張らず、お風呂屋さんに富士山はなく、アイドルはブラウン管の向こうにおらず、ディスクはフロッピーでなくなり、カセットテープで音楽を流さず、ウェーイ」

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/one-man-vs-the-fax-machine-a-battle-to-defeat-old-tech-in-japan-11603118551

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