「スウェーデンのコロナウィルス対策」vol.2
執筆 Ryoko Kondo
筆者の在住するスウェーデンでは、強制的ロックダウンではなく最低限の禁止項目と国民の自粛を促す政策を執るという独自路線をとった。連載第1回に掲載した「国民生活行動に関する対策」に続き、今回のコトラプレスでは「経済対策」、「医療現場対策」そして「政策と途中経過」をスウェーデンの現状として紹介したい。
経済対策: 金融・経済大臣主導
もちろん、コロナウィルスの影響を受けている業界は他国と変わらない。レストラン、ホテル、航空業界、観光業界の痛手は酷い。製造業も打撃を受けている。国による支援・救済ローンの出し方は概ね他の国と似ているので割愛し、ここでは失業者対策について言及したい。
コロナウィルスが経済活動に与える負の影響により、スウェーデンの失業率は2019年の6.9%から2020年には10%に跳ね上がると言われている。このままいくとスウェーデンでは夏までに50万人が職を失うと見られている。人口1千万人の国にとってはかなりの衝撃だ。
スウェーデンにはA-kassaという失業保険制度がある。自己加入式で、国民の大多数が加入しているが、低所得者ほど月110クローナ(約1,200円)の保険料を嫌疑して加入していない場合が多い。失業した場合、保険金を受け取れるのは加入後12か月後というルールを、コロナ後、国は3か月に短縮した。また、A-kassaに加入していない失業者が受け取れる月最低8,030クローナの失業保険受給額を11,200クローナに増加した。ここでも政府の対応は迅速だった。
医療現場の対応策:病院、社会庁、国民健康庁主導
スウェーデンにはCovid-19感染患者を受け入れ可能な52の病院がある。人口密度の高いスウェーデン、ヨーテボリでは特に、3月半ばからCovid-19患者の受け入れ体制拡大のための措置を施してきた。まずは軍が所有するテントの医療施設を転用し、大都市ストックホルムとヨーテボリにテントの医療設備と病床を整えた。また、集中治療室での治療を必要とする重篤なコロナ患者を受け入れられるICU病床数の拡大に力を入れた。コロナ拡大前のスウェーデン全体のICU病床数は526床であったが、受け入れ病院の努力で300床増えた。
病院等のインフラ提供側はCovid-19患者の急増に備えるべく病床数、ICU、人材を流動的に動かし、突貫工事で体制を整えた。それでも患者数の増加に医療提供が間に合わない場合を想定し、医療を受けられるCovid-19患者の優先順位付けについて社会庁がガイドラインを作成した。医療崩壊を避けるための最後の一線である。患者の生死を医療従事者が決めなければならない局面を想定し、その判断基準となるガイドラインをあらかじめ医療従事者に示したのだ。
優先順位1
既往症治療歴があり余命12ヶ月以上の診断を受けているCovid-19患者は最優先でICU治療を受けられる。その中でも優先順位付けが必要な場合は、生物学的年齢上若い者から優先的に治療を行う。
優先順位2
身体機能制限を伴う1つまたは複数の深刻な全身性疾患があるか、既往疾患があり余命6-12ヶ月とされている患者
優先順位3
当初から生存の可能性が低いと想定される患者
要約してしまっているので分かりづらいかもしれないが、要は既往疾患があり、生存可能性が低いCovid-19患者の優先順位は低く、さらに年齢は若い方から優先的に治療するというものだ。
Covid-19入院患者数、ICU患者数、死亡者数は毎日、国民健康庁から発表されている。幸いにして、スウェーデンでは医療崩壊は起こっていない。仮設のテント病院もそれほど使われていないようだ。
政策と途中経過
スウェーデンのとってきた政策の経過を示す統計データがある。5月5日現在、スウェーデンのコロナウィルス感染死亡者数は2,769名である。休校、外出禁止等強硬なロックダウン政策を執った近隣諸国と比べると、フィンランド240名、ノルウェー214名、デンマーク493名である。スウェーデンの人口は1千万、他国は約半分であることを割り引いてもスウェーデンのコロナウィルス感染による死亡者数は突出している。スウェーデンで亡くなった2,769名の内、もっとも人口密度の高いストックホルムでの死者が1,406名を占め、その半分以上が老人ホームのお年寄りたちであった。看護師を介して老人ホーム内での感染が拡大したと見られる。
ただ、死亡者数を抑え込んできた近隣諸国も、いつまでも厳しいロックダウンを続けているわけにはいかず、解除の時期を模索し始めている。ワクチンも治療薬もない現段階ではそれは結局、感染拡大カーブの後ろ倒しに成功しただけにすぎないという見方もある。
ストックホルムでは4月第一週末のイースターの時期に500人の血液サンプルを取った結果、約10%がコロナウィルスに感染済みであることがわかった。ストックホルムの大病院では医療従事者の5名に1人が感染済みという記事もある。ICU入院患者数は僅かだが減少の傾向が見られる。
多くの国がロックダウン出口のタイミングを見計らっている。最近思うのは、最終的にはスウェーデン式がニューノーマルになるのではないかということである。スウェーデンは最初から一貫してこうなることがわかっていて、それを実践したに過ぎないだけなのだ。
スウェーデンでは政府のコロナウィルス対策について7割の国民が「満足、またはまあ満足」と考えている。
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