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米国の工場労働者、大学水準の教育が必要に

 

3年以内に米製造業労働者の過半数が大学卒業者となる見込み


米国の製造業の現場では、大学教育を受けた労働者が増えている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)による米国連邦政府データの分析によると、以前と比べて高い技術が必要な新しい仕事が製造業分野に登場したことにより、工場労働者に求められる教育水準も高まっている。過去何世代かの工場労働者はこれまで、高学歴でなくとも何とかやっていくことができた。

 今後3年以内に、米国の製造業企業は初めて、高卒以下の教育水準の労働者よりも大卒労働者を多く雇用するようになるとみられる。これは、生産の拡大をもたらしている作業自動化の進展の一側面であり、女性の雇用拡大の道を開く一方で、熟練度の低い労働者の雇用機会を減らすとみられる。

 シカゴ大学の経済学教授であるエリック・ハースト氏は「かつては手作業が多かったが、現在求められるのは機械操作ができる労働者だ」と語る。

WSJの分析によると、米国の製造業企業の労働者数は、前回の景気後退期以降に100万人以上増えたが、その増加分は大卒資格を持つ男女に振り向けられた。同じ期間に、製造業企業が雇用した高卒以下の労働者の数は減少した。

 工業技術者など最も複雑な問題解決能力を求められる職の就業者数は、2012年から2018年の間に10%増えたが、最も要求レベルの低い仕事の就業者数は3%減少したことが、WSJの分析で分かった。

 イリノイ州シカゴ郊外のアディソンにある機械メーカー、パイオニア・サービス社では、静かな作業現場でポロシャツにジーンズ姿の従業員らが、複雑な航空機部品を製造するためロボットに指示コードを入力していた。彼らの中には、高学歴の者も含まれている。これは、1990年代のパイオニア社の作業風景とは大違いだ。当時の従業員たちは、会社の制服を着ていた。冷暖房システムの部品製造の過程で、1960年代に生産された手動の機械から飛び散る油で自前の服が汚れないようにするためだ。パイオニアの現在の従業員数は、2012年時点と同じ40人だが、簡単な金属部品を手作業で生産していた時代から残っている者は、一握りにすぎない。

 パイオニアの社長で共同オーナーのアニーサ・ムサナ氏は「今はハイテク化が進んでいる。より高い技術が必要になっている」と語る。

 ムサナ氏によると、テスラの自動車や他の高級乗用車の部品を生産しているパイオニアの昨年の売上高は過去最高に達した。同社の成功は、金融危機を乗り切った他の企業と共通している。

製造業分野の改善は、米国の工場の生産性をかつてないレベルに引き上げた。そして、最近の米雇用者数の伸びにもかかわらず、製造業分野の従業員数は、ピーク時の1979年の2000万人近い水準から3分の2に減っている。

 応募条件の専門性が上がることで、かつて工場の仕事が提供してきた中間層への道が狭まった。新しくて高度化した製造業の仕事は給料が良いが、早期に教育を受けるのをやめた労働者の助けにはならない。製造業労働者のうち大学の学位を持つ人の比率は40%を超えており、1991年の22%を大きく上回っている。

 大手メーカーの従業員も高技能で高学歴の方向にシフトしている。ハネウェル・インターナショナルの工場責任者であるダレン・コセル氏によると、今年は同社航空宇宙事業の新規採用者の70%前後が、少なくとも準学士の学位を持っているという。同氏によると、同社は毎日ただタイムカードを押すだけの工場労働者のための場所ではないという。「そのような人は、ここでは成功できない」

 ノースカロライナ州クレイトンにあるキャタピラーの工場では、技術への投資により、4年前なら製造に2シフトかかっていた小型ホイールローダーを1シフトで製造できるようになった。

 キャタピラーが発表した18年末時点の労組加入労働者の数は1万人で、07年の1万5000人から減った。この間に同社の売上高は20%増加した。最近、キャタピラーが米国で出している全ての求人を検索したところ、5分の4以上が大学の学位を必要とする、ないし、学位がある方が好ましいとされるものだった。同社の製造に関わる仕事の過半数は、学位か専門的な技能を求めていた。

 ハイリスク

 パイオニアのムサナ氏は2012年に難しい選択に直面した。自動生産システムと従業員の訓練に何百万ドルもの資金を投資するか、それとも、おじが30年前に創業したパイオニアをたたんで引退するかという選択だった。

 かつて、油を飛び散らしながら動く工場の機械を調整していたのは、長さ30センチのレンチを握る二十数人の作業員たちだった。仕事が終わると、彼らは油と金属の削りかすにまみれていた。

 パイオニアの最大の顧客だった冷暖房システムメーカーは、取引先を安い海外の供給業者に変えた。パイオニアのビジネスは1年で90%減った。すると、供給業者への支払い必要額が、既存の受注でカバーできる金額を上回るようになった。

ムサナ氏は2012年10月15日、会社の駐車場に座り、従業員たちの車を見ていた。ムサナ氏は、「もし私が会社をたたんだら、彼らはどこに行くのだろう」と当時の思いを振り返った。

 ムサナ氏は工場を閉鎖せず、初めて販売担当者を雇い入れた。彼らは、自動車メーカーが複雑な金属部品を必要としていることを知り、パイオニアでそれを生産すればヒーターやエアコン向け部品よりも多くの利益を上げられることに気づいた。

 問題は、パイオニアの古い設備では十分な速さで部品を作れないことだった。そのためムサナ氏は、1回の作業で複雑に入り組んだ部品の正確な切断、穴開けができるようにプログラミングできる機械を探し求めた。

 ムサナ氏によれば、パイオニアはそうした最先端の設備の扱いでほとんど経験がなかったが、納入業者に対し、機械類の設置と立ち上げを助け、機械を使用する従業員向けの訓練も行うよう説得した。

 パイオニアに主な機械を納入した企業のオーナー、デーブ・ポリト氏は、「返済可能な最低限の保証で巨額の資金をムサナ氏の工場に投入した」と述べた。ムサナ氏はこれまでに機械やソフトウエア向けを中心に最新技術に600万ドル(約6億5200万円)以上を投じてきた。

導入した設備は複雑な部品を6分ごとに1個生産する。以前は1個の部品を作るのに複数の機械を使って45分かかっていた。操作の習得はパイオニアで長年働いてきた従業員にとって容易ではなかった。

 パイオニアで14年間にわたり古い設備で作業を行ってきたフェルナンド・デラトーレさんは、新しい設備のプログラミング用に使用するコードを覚えるのに苦労した。

 「私はコンピューター関連のものや、こうした数字全般を学ぶのに向いていなかった」とデラトーレさんは語った。デラトーレさんは2017年、パイオニアを退職した。当時の同社の給与は時給16.50ドルだった。

 自社工場の転換作業の中でムサナ氏にとって最もつらかったのは、長年にわたって勤務していた従業員が退職したり、解雇したりしなければならなかったことだった。同社にいた従業員40人のうち約10人が会社に残った。そのうちの1人だけがコンピューター化されていない特殊なグラインダー(研磨機)で作業している。

 「私はそうした仕事を残し、彼らに雇用機会を与えた」とムサナ氏。「しかし、働いていたメンバーの大半はもうここにはいない」と付け加えた。

 ムサナ氏はスキルを持ち、技術を学びたいと思う労働者を探すため、大学の就職説明会に参加する。「私は働く機会を提供したいと考えている。しかし、学生が変化を求めず、自身の心地よい環境から抜け出したいと思わないのであれば、私にできることはない」と語った。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

https://www.wsj.com/articles/american-factories-demand-white-collar-education-for-blue-collar-work-11575907185?mod=searchresults&page=1&pos=1

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