最高の上司、必要な資質は「謙虚さ」
上司が控え目なチームは成績良好
人を引きつける力やカリスマ性を基準にリーダー候補を長年選んできた企業の一部は、最も重要な資質の1つを見逃してきたことに気づき始めている。謙虚さだ。
今はソーシャルメディアやビジネス、政治において傲慢(ごうまん)な人が得をする時代だ。だが研究者や雇用の専門家は、謙虚な人にスポットライトを当てることで、より良い結果が生まれる可能性があると指摘する。
緊密なチームワークや迅速に学ぶ姿勢、優れた成績を発揮しているチームのリーダーには、謙虚さが中核的な資質として備わっていることが、過去3年間に実施された複数の調査で明らかにされている。謙虚な人は自らの弱みを認識し、向上心が高く、他者の強みを高く評価し、私欲を超えた目標に集中する傾向があるためだ。
社員に関しては、謙虚さは離職率や欠勤率の低さに結びついている。こうした強みは見過ごされがちだ。謙虚な人は目立たないように行動することが多く、外部からは全ての仕事をチームがやっているように見えるからだ。
採用や昇進を決める際に謙虚さを考慮する企業が増えている。この目立たない資質を評価する新たな手法も開発されている。
職業適性テストを作成するホーガン・アセスメンツの最高科学責任者を務めるライン・シャーマン氏によると、同社は2019年初めに、求職者やリーダー候補の謙虚さを測定するための新しい20項目の基準を発表する予定だ。「職場での他者のアドバイスをありがたく思う」「自分は平均的な人より尊敬に値する」といった質問に同意するかどうかを答えることで、謙虚さを測るものだ。
求職者は受付での態度も審査
「リーダーはカリスマ性があり、注目されるのが好きで、人を説得するのがうまい人であるべきだとおおむね考えられている」とシャーマン氏は話す。「しかし、そのようなリーダーは会社を駄目にすることが多い。自らの手に余るほどの仕事を引き受け、自身過剰で他者のフィードバックに耳を傾けないためだ」
謙虚なリーダーでも負けず嫌いで野心家の場合もあり得る。しかし、彼らは注目を浴びることを避け、チームの功績をたたえることが多いとシャーマン氏は指摘する。彼らは他者に助けを求めたりフィードバックに耳を傾けたりし、その態度が部下の手本にもなる。
下級職人材の採用でも謙虚さを基準に選ぶ企業は増えている。その理由の1つについて、人材管理ソフトウエアを開発するコーナーストーン・オンデマンドのアダム・ミラー最高経営責任者(CEO)は、謙虚な人は倫理的な行動を取ったり長く働いたりすると考えられるためだと説明する。
アウトドア衣料品会社パタゴニアでは、面接に訪れた応募者が建物に入った瞬間から謙虚さをチェックし始めているという。同社の人事部門を世界的に統括するディーン・カーター氏によると、採用担当者は後で受付担当者に「受付での態度はどうだったか」といった質問をして確かめている。応募者についてスタッフから失礼または自己陶酔的な態度が報告された場合、「落とす決め手になり得る」とカーター氏は話す。謙虚さを培うことであらゆるレベルの従業員がアイデアを提案しやすくなると同氏は指摘する。また謙虚な従業員は、環境問題を解決するという同社のミッションを後押しする確率が高いという。カーター氏は面接で応募者に対し、大きな失敗をしたときの経験について尋ねているという。「相手が『失敗は多々あるので、ちょっと考えさせてください』と言えば、それは多くを物語る。謙虚に学ぶ機会がたくさんあり、その中から1つ選ばなければならないとすれば、それはいいことだ」
どの同僚が謙虚かを分かっているつもりでも、間違っている可能性は十分ある。謙虚な人はそれを誇示しないからだ。それに傲慢な人を含め、多くの人が良い印象を与えようと自分を謙虚で役立つ人間に見せようとするものだと、カナダ・カルガリー大学のキボム・リー教授(心理学)は話す。
トップダウンが有効な場合も
ホーガン社の新しい謙虚さテストは、リー教授とカナダ・ブロック大学のマイケル・アシュトン教授(心理学)が行った研究に一部基づいている。両教授は数年前、性格に関する数カ国語の研究を調査し、謙虚さと誠実さの組み合わせ(「Hファクター」)を安定的な性格特性の1つと特定した。
安定的な性格特性は、一部の人に一貫して見られる誠実さや謙虚さ、公正さ、正直さ、慎み深さなどの性質が合わさったものだ。このような性質を持つ人は他者を操ったり、ルールを曲げたり、欲深いまたは偽善的な行動を取ったりするのを避ける傾向がある。
米ブリガムヤング大学のブラッドリー・オーエンズ准教授(ビジネス倫理)によると、同氏が中心となって実施した調査では、リーダーが謙虚なチームはリーダーがあまり謙虚でないチームよりも成績が良く、仕事の質が高かった。
こうした働きぶりの向上は、謙虚さとは関係のない他のプラスのリーダーシップ特性をチームリーダーがどれだけ発揮したかには関係なく現れていた。
ただ場合によっては、リーダーシップスタイルを変える必要がある。例えば、部下が極めて大きな脅威や厳しい時間的なプレッシャーにさらされている場合、上司はより厳然としたトップダウンアプローチを取った方がいい可能性がある、とオーエンズ氏は指摘する。
しかし、経営誌ジャーナル・オブ・マネジメントに掲載された、コンピューターハードウエアとソフトウエア企業105社を対象にした調査によると、CEOが謙虚な企業はそうでない企業よりも経営陣がスムーズに協力し、互いに助け合い、意思決定を共有している。また、そのような企業はCEOと他の経営メンバーの賃金格差も小さい傾向がある。こうした要因によって、経営陣全員が密接に連携することや、その結果として全社的な効率やイノベーション(技術革新)、収益性が向上することを調査は示している。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
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