初心貫くベゾス氏、リーダーシップの極意語る
時価総額が世界1のアップルに迫るアマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は、ビル・ゲイツ氏を抜く世界一の富豪でありながら、マスメディアへの登場は他の成功者に比べて少なく、低姿勢を貫く著名リーダーだ。そのベゾス氏が米首都ワシントンのエコノミック・クラブが9月13日主催した講演イベントで、約1400人の聴衆を前に哲学・持論を語った。
同氏は、朝10時前には会議の予定を決して入れないようにしている。「早寝早起きして、朝はのんびり動き回るのが好き」と語るベゾス氏は、新聞を読み、コーヒーを飲んで子供と朝食を共にすることを好む。「高度IQ」の会議はランチ前に入れ、夕方5時までには帰宅の途に就くようにしている。
経営幹部として日々優先する仕事は、限られた数の質の高い決断を下すことだという。そのために睡眠時間も8時間とっている。そうすれば「よりよく思考でき、エネルギーも高まるし、気分もよくなる」からだ。睡眠時間を削ればもっと多くの判断を下せるが、そんなことをする価値はない。「一日に3つの良き決断を下せれば、それで十分だ」と言う。「とにかく自分にとって可能な限り質の高いものでなければならない」時間管理に関するベゾス氏の哲学を伺わせるコメントだ。
講演では、自宅ガレージでオンライン書店を立ち上げたアマゾン創業初期から、複数の事業部門を持ち、世界各地にオフィスを構える巨大企業を率いるに至った、何十年かの急速な変化で学んだ教訓を振り返った。
爆発的な成長を遂げたアマゾンは先ごろ、米企業としてアップルに次ぐ2番目の時価総額1兆ドル超えを達成し、ベゾス氏は世界一の富豪になった。
ベゾス氏は聴衆に対し、世界一の富豪を目指した訳ではないと強調。「それより『発明家ジェフ・ベゾス』とか『起業家ジェフ・ベゾス』、あるいは『父親ジェフ・ベゾス』と言われたい。そちらのほうが私にとってはずっと有意義だ」と打ち明けた。
アマゾン株は足元で過去最高値圏にあるが、20年余り続けている全社会議では、従業員に繰り返し次のように諭しているという。「株価が1カ月で30%上昇しても、30%賢くなったと考えないこと。なぜなら、1カ月で30%値下がりした時に、30%愚鈍になったと感じるのは気持ちいいものではないからだ。そういうことは起こるものだ」
ベゾス氏はさらに、伝説的な投資家ベンジャミン・グレアム氏の「株式市場は短期的には投票機(人気投票の場)、長期的には計量器(企業などの価値を測定する場)のようなものだ」という名言を引用。「なすべきなのは、いずれはかりに掛けられるということをわきまえた上で、自分の企業をそのように運営することだ」とし、「日々の株価のことを考えるのに決して時間を浪費しないこと。私は決してしない」と続けた。
社名を選んだ際には、明快さが大事だということも学んだ。当初はオンライン書店を「カダブラ」と名付けたいと思っていた。古代の魔術師の呪文、アブラカダブラにちなんだ名称だ。法人化するために弁護士に電話したところ、弁護士は「カダバー(死体)」と勘違い。「そうか、これはだめだな」と気がついた。それからおよそ3カ月後、社名をアマゾンに変更。意図するところは「地球最大の大河、地球最大のセレクション」だ。
ベゾス氏は講演でお気に入りの話題に時間を割いた。顧客だ。当初の書籍、音楽、動画以外にアマゾンの事業を拡大する方法を検討した時には、無作為に選んだ顧客1000人にメールを送り、アマゾンのウェブサイトで何を買いたいか質問した。大半の返信は、何であれその時に必要としているものを挙げていた。自動車のワイパーなどだ。ベゾス氏は「『それならあらゆるものを販売できる』と考えた」
ベゾス氏はビジネスのリーダーシップに関する教訓の多くを、「ベゾス・デー・ワン・ファンド」へ持ち込むつもりだという。9月13日発表したこの新ファンドにまず20億ドルを投じ、住む家のない家族の援助や、低所得地域の幼児教育ネットワークの構築を支える計画だ。「デー・ワン」とは、ベゾス氏の究極の基本命題、すなわち、いかにして企業のスタートアップ精神を維持するかを象徴している。
ベゾス氏は「私がやってきたことは全て、小さく始まった。アマゾンは数人で始まった」と昔をしのんだ。「まるで昨日のことのように思い出す。自分で運転して郵便局に小包を運んでいた。いつの日か、フォークリフトを買えますようにと願いながら」
アマゾンは50万人以上の従業員を抱えるほどの巨人に育ったが、ベゾス氏は初心を忘れまいとしてきた。「大企業ではあるけれど、小さな会社のような心と精神を保ちたい」と熱を込める。
その伝説的な顧客本位の姿勢が、新たな層へと向けられつつある。進学前の幼児たちだ。
「私たちが成功してきた一番の理由は、ほかでもない、競合へのこだわりではなく、顧客に対するひたむきなこだわりだ」と断言している。「われわれはひたすら、無心に子供に集中する。できるときには科学的な手法を用いる。そして心と直感を頼りにしていく」
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
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