シリコンバレーで人材を引き抜く中国
米政府は技術競争力と安全保障の低下を危惧、対抗措置へ
トランプ米政権は中国への頭脳流出が米国の技術的競争力と国家安全保障を損なうことを危惧し、中国企業による一部米IT企業への投資を制限しようとしている。
一方、中国は別の方法で米国のノウハウを活用しようとしている。人材の引き抜きだ。
政府当局者や人材紹介会社、引き抜きの誘いを受けた人たちによると、中国政府や企業はトップクラスのエンジニアや科学者、その他の熟練技術者(特に米国在住の中国系人材)を引きつけようとしている。主な標的となっているのが、大手IT企業や研究所、ベンチャー投資家が集まるシリコンバレーだ。
中国政府の技術政策に関するトップアドバイザーの1人が今年初め、当地で講演を行い、中国の最先端技術に対する需要と潤沢な資金によって生み出された新たな可能性について売り込んでいた。「皆さんにお集まりいただいたのは、新たな協力の機会を探るためです」。中国の半導体調査を指導する葉甜春氏は、満員の聴衆に向けて中国語でこう述べた。
中国人と中国系米国人を中心に300人を超える人たちが葉氏の話を聞こうと集まった。参加者が多すぎて懇親会の食事と席が足りなくなり、葉氏が参加者に分け合うよう要請したほどだった。
中国は「技術強国」になるという野心的な計画を掲げ、人工知能(AI)やバイオテクノロジー、ロボット工学などの未来の産業を支配することを目指している。習近平国家主席が言う「イノベーション(技術革新)の世界的リーダー」にすることが狙いだ。
引き抜きや企業誘致のルートに
そうした取り組みを米国は懸念している。ホワイトハウスは近々、中国資本が25%以上の企業に対し、「重要な産業技術」に関与している企業の買収を禁じる規則を発表する見通しだ。
トランプ政権の最近の報告書では、葉氏が講演を行ったようなカンファレンスやシリコンバレーの中国IT企業の拠点について、人材引き抜きや新興企業の中国誘致のルートになっていることが指摘されている。また、在米の中国人科学者や学生、企業による米国の企業秘密へのアクセスを制限するため、ビザ(査証)発給を厳格化することも検討されている。
だが今のところ、中国企業は人材引き抜きを続ける万全の態勢にある
アリババグループ や 百度(バイドゥ) などの中国IT大手はシリコンバレーに研究開発拠点を構えている。また、中国のIT企業やベンチャーキャピタル(VC)企業のハブとして、北京市内には同市政府系企業によって3階建ての「中関村科技園」(中関村サイエンスパーク)が設けられている。
コンピューターが全てを動かす今の時代、コンピューター科学者やエンジニアは引く手あまたのため、頻繁に転職する人が多い。IT業界の報酬について調査しているペイサが昨年実施した調査によると、米IT最大手の一部では社員が平均2年以内に転職している。
グ・ジュンリさんは中国の一流大学でコンピューター工学の博士号を修めたあと、シリコンバレーに向かった。グーグルの本社でインターンとして働いたあと、半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)に入社し、ビッグデータとAIアプリに携わった。その後、電気自動車(EV)メーカーの テスラ に半自動運転部門の幹部として加わった。
1年8カ月後の昨年10月、グさんは再び転職し、アリババが支援する中国の新興EVメーカー、小鵬汽車に自動運転部門のバイスプレジデントとして迎えられた。グさんは自身の経歴が中国企業の興味を引いたと話す。「製品開発に関わったことがあれば、難点や複雑な点がどこにあるかが分かる。その経験がなければ、どこから始めればいいか分からない」
米IT企業の技術力の供給源
こうした転職は、個人がチャンスを生かすためであることも多いが、先端技術での差を埋めるという中国政府の組織的な取り組みとも一致する。人材の補強は、航空機、情報ネットワーク、代替エネルギー車、ロボット工学をはじめとする12の最先端分野で世界を主導することを目指す国家戦略の優先事項の1つだ。
「米国と中国の間をシームレスに移動できるほぼ唯一の存在がエンジニアだ」。グーグルの元社員でヘッドハンティング企業「Leap.ai」を共同創業した中国人の周雲凱氏はこう話す。同社はシリコンバレーに拠点を置き、AIを活用して転職希望者と仕事のマッチングをしている。
米国と中国の一流大学を卒業した中国系人材がシリコンバレーでは大きな存在感を放っており、 フェイスブック やグーグルなどへの技術力の供給源となっている。春節(旧正月)には、中国名門校の同窓会支部がサンフランシスコのベイエリア周辺に住む卒業生を集めてパーティーを開いた。
Leap.aiは2年前の設立当初は幅広いITコミュニティーにサービスを提供することを目指していた。だが予期せず利用者は圧倒的に中国人が多いと周氏は話す。
同社は利用者数を公表していないが、全体の約70%がエンジニアで、50~55%が中国人。中国企業は中国系の人材を雇う傾向が非常に強く、人事の専門家によると、在米の中国IT企業ではエンジニアの80%が中国語話者だという。
エンジニアや人事担当者によると、競合との差を縮める効果的な方法はカギとなる人材を引き抜くことだ。だが配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズとグーグル系ウェイモの自動運転技術を巡る争いのように、米企業は優秀なエンジニアのライバル企業への転職を巡って法的措置に訴え出るようになっている。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
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