日欧EPA妥結、貿易で取り残された米国
アメリカ・ファーストを唱え続けるトランプ大統領政権だが、取っている政策は逆効果をもたらす公算が大きい。トランプ大統領就任後、アメリカはすぐにTPP離脱を宣言した。TPPを推進していた日本の当ては外れたが、日本は目先を変え、先週EUと経済連携協定(EPA)を妥結した。
日本と欧州連合(EU)が先週妥結した経済連携協定(EPA)は、ドナルド・トランプ米大統領の貿易保護政策が米企業や農家にどのような被害をもたらすかを示している。合意によって日欧間では95%以上の品目で関税が撤廃されるほか、非関税障壁も削減される。米国は12カ国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、魅力的な日本の農産物市場へのアクセスを失ったが、欧州はそれを手にすることになる。
米農務省によれば、日欧EPAによって欧州産豚肉への輸入割当枠は撤廃され、関税は10年かけて80%から約17%まで下げられる。日本の冷蔵豚肉市場の58%、加工豚肉市場の63%を占める米国の農家にとって、これは痛手だ。欧州は日本の冷凍豚肉市場の62%を占めている。
欧州の牛肉輸出量は大きくはないが、こちらも15年をかけ関税が38.5%から9%へと引き下げられる。これはTPPにも含まれていた内容だ。また米国産冷凍牛肉は3月末まで関税率が50%に引き上げられているが、欧州産牛肉はこのような緊急輸入制限(セーフガード)から除外される。米農務省認定のプライムステーキが占めていたシェアに、欧州の高級牛肉生産者が食い込んでくる可能性がある。
EPAが発効すれば輸入アルコール飲料に課されている15%の関税が撤廃され、欧州のワイン醸造業者にも好機が訪れる。30%の関税が消滅する欧州のチーズ輸出業者も恩恵を受ける。EUは加工食品の対日輸出額が170~180%増加すると予測している。カリフォルニアのワイナリーは「サワーグレープ」(すっぱいブドウ、負け惜しみの意味)とでも言いたい気分だろう。また米中西部の酪農家たちにとっては「ハードチーズ」(「気の毒」の意味)なことだ。
日本は海外からの輸入車に関税をかけていないが、米国の自動車メーカーは非関税障壁の影響で日本の消費者がデトロイト産車を購入していないと以前から不平を言っている。日本政府は欧州産車については、そうした障壁も減らすと約束した。2011年に発効したEUと韓国の自由貿易協定(FTA)には同様の規定が含まれていた。欧州から韓国への自動車輸出は、その後4年間で3倍に膨れあがった。
日本が市場を開放する見返りに、欧州側は日本車と自動車部品にそれぞれ課せられている10%と3%の関税を撤廃する。日本の自動車業界は輸出の13%が欧州向けだが、巨大市場でさらにシェアを拡大する機会になるとみている。米国の自動車メーカーも同様の対応を求め働きかけていたが、米欧貿易交渉は停滞したままで、トランプ政権は交渉がうやむやになっても構わないと考えているように見える。
関税削減は重要だが、貿易上より大きな障害になりかねないのが、安全要件やその他の規制だ。日欧EPAでは食料品、自動車、医薬品、そして医療機器について、これらルールを調整する合意も含まれている。競合する米国企業が大幅に不利になる恐れがある。
米国にはTPPを通して多国間貿易の新たな基準を設定し、米国からの輸出を劇的に増やすチャンスがあった。米国がTPPから脱退した後、そのようなリーダーシップを求めて安倍氏は欧州に目を向けた。今後、米国との2国間協定に関する交渉を引き伸ばしにかかるだろう。トランプ政権は貿易相手国から譲歩を引き出す考えだったが、それが裏目に出ることになり、相手国は別の相手と新たな関係を築いている。失われた機会の代償を払うのは米国企業であり、その被雇用者たちだ。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/the-u-s-is-left-behind-on-trade-1513297681
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