有能な女性行員定着のための米大手金融機関の試み
米国金融業界の統計値によると、大卒入社時点の男女比率はほぼ半々であるにもかかわらず、その後のキャリア展開を見るとバイス・プレジデントクラスの社員に占める女性の割合は32%、執行役員クラスになると22%に留まります。日本における同様の統計値は、入社の段階からもっと女性比率が低いのかもしれませんが、米国大手金融機関は昇進と共に減っていく女性比率に歯止めをかけるための対策を何年も前から打ち出してきました。
今年7月、CitigroupのCEO Miochael Corbatは、世界各地で活躍する約50名の女性シニアバンカーを一堂に会し、「Citi Women Initiative」というセッションを開きました。セッションの目的は、「女性がより良く活躍するための率直な議論をすること」であり、ラテンアメリカやアジアなど、未だ欧米以上に男性上位社会である地域から出席した女性バンカーの経験や提案についても積極的に議論がなされました。
一方、JPモルガンはこの夏、数十万ドルを費やしてパイロット・プログラムを実施しました。プログラムは大卒入社直後の女性社員向けであり、内容はテクノロジー分析に関するものです。約4週間のブート・キャンプに出席した女性社員たちは、プログラム終了後、ほぼ男性一色の社内コンピューター・プログラム開発チームに配属されます。JPモルガンのChief Administrative OfficerであるTeplitz氏は、「現在テクノロジー及びソフトウェア開発部隊に所属する女性は全体の20%程度だけれど、将来的には30%まで引き上げたい」と語ります。
モルガンスタンレーは大半が男性の管理職バンカーに対し、「才能豊かでポテンシャルの高い女性バンカーが彼女たちのリーダーシップを十分に発揮できるよう目を配り、サポートする体制づくりを後押しする」ためのプログラムを導入しました。男性管理職を優秀な女性バンカーのメンターとしてサポートにあたらせる試みです。重要なことは、優秀な女性バンカーが社内で強固なネットワークを作ることを手助けし、優秀な男性バンカーが彼女たちの昇進に積極的に携わり、サポートの意思表示を見せることだとモルガンスタンレーは考えています。
こうした金融機関の努力は、徐々に成果を出し始めてはいるものの、20代後半から30代前半時期は女性にとって昇進の時期でもあり、同時に出産して家族を増やす時期にも当たり、男性よりもどうしても女性の離職率が高くなる傾向は変わっていません。
そこで米国金融機関が優秀な女性を銀行に残らせるための試みとしてもう一つ注目されているのが、子育ての為に一度金融機関を離れた女性の再雇用斡旋です。
ゴールドマンサックス、JPモルガン、モルガンスタンレーは2008年に「リターンシップ」プログラムを立ち上げました。子育ての為に離職し、2年以上キャリアブランクのある女性を再雇用するプログラムです。例えばゴールドマンサックスが提供する10週間のリターンシップ・プログラムでは、参加者は離職期間中の変化目まぐるしい金融業界の変化についてだけでなく、同期間の技術進歩、同期間の金融規制制度・コンプライアンス法令の変化など、全てについて学びなおします。参加者は同プログラム参加の後、実際の仕事を与えられ、ファイナンス、法務、投資銀行、営業業務などでOn the Jobをこなし、最終的にはフルタイム復帰が可能かどうかを判断されることになります。同プログラム発足後、約150人が参加し、その約半数がフルタイム職場復帰を成し遂げているとのことです。この数値を見ると、金融機関が優秀な女性を会社に留まらせるための努力は功を奏しているように思えます。
上記はWall Street Journalより要約引用しました。
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