日本の「ガラスの天井」破りに挑戦―元米国証券取引委員会メンバーの英国貴族夫人がリクシル・グループ役員に
36年前、当時アメリカの企業弁護士であったバーバラ・トーマス氏は大好きな和陶磁器を求めて観光客として日本を訪れました。
今日、彼女は英国貴族ジャッジ卿夫人として、そして英国原子力公社(UKAEA)名誉議長、英国年金保護基金(PPF)及び英国貿易投資総省を代表する英国ビジネスアンバサダーとして、日本女性の悩みである「ガラスの天井」を破る手助けをするために日本企業の役員となりました。
この夏、ジャッジ卿夫人は米国証券取引委員会のメンバー、それから大英帝国勲章受賞者としての過去の輝かしい経歴に、LIXIL Group(リクシル・グループ 東証5938)の役員という肩書を追加することになりました。リクシルは建材やバスルーム資材の会社で、近年American StandardやドイツのBroheブランドを買収しました。
ジャッジ卿夫人は現在68歳。役員着任早々、リクシルの中国子会社における不正会計問題に対応し、また企業ガバナンスそのものの在り方を厳しく問う等、挑戦には事欠かない日々を過ごしています。
上記経歴以外にも、News CorpやDow Jones & Co等で働いた経験のある彼女は、外国人女性だからこそ日本企業の役員として日本企業ガバナンスの抱える問題解決に貢献できると考えています。彼女は経営陣に厳しい問いを投げかけることを躊躇しないからです。
先日ウォールストリートジャーナル紙はジャッジ卿夫人へのインタビューを行いました。
WSJ:そもそも何故リクシルの役員になることを決断されたのですか?
夫人:リクシルだけでなく、日本のビジネスコミュニティーが私のような経験豊富な女性を求めていると思ったからです。日本社会、ビジネスマンにないのは、模範となる人物像です。つまり男性女性を問わず、「こういう人物になりたい」というロールモデルがいないから、目標設定が難しくなっているのです。
WSJ:日本の企業ガバナンスを向上させるために、女性ができることとは何でしょう?
夫人:外国人女性は秘密兵器のようなものだと思います。私を役員に招いたということは、つまりリクシルが私の意見に敬意を払うつもりであるということです。企業自身がガバナンス向上の為に外国人女性にしっかりと意見を言ってもらうことが必要だと考えているのでしょう。
WSJ:日本企業の役員となれる器の日本女性はどれくらいいると思いますか?
夫人:あなたが思うよりいると思います。弁護士や会計士等ね。アカデミックなバックグラウンドの持ち主が候補に挙がることも多いと思いますが、アカデミックすぎても役員としてはうまくいかないと思います。弁護士や会計士はその点既にビジネス経験者ですし、分厚い書類や数字にも慣れていますから、役員になる資質は備わっていると思います。また、日本人女性は男性と同じような訓練を受ける必要があります。財務諸表の読み方に始まり、戦略の立案、会計報告など、ビジネスの基本を男性と同じように教育すべきです。
WSJ:安倍首相は企業により多くの女性管理職登用が望ましいと言っていますが、現状そんなに変わっていません。
夫人:首相の責任ではありません。これは短期間で達成できることではないのです。「役員にもっと女性の登用を」という声が政治レベルで上がったことだけでも進歩だと思います。
WSJ:あなたは以前、女性役員登用の数値目標には反対だと言っていましたが、実は欧州各国で女性役員の人数や割合の目標設定が課され、実行されています。これについてどう思いますか?
夫人:変化を起こすために、政府が目標設定を企業に課すのはそれなりの効果があると、最近は思うようになりました。日本でも数値目標の導入が効果を発揮することを願っています。特に日本は現状維持を好み、変化を嫌います。文化を変えるには、トップダウンのプッシュが必要でしょう。
WSJ:リクシルの役員になって以降、実際どのようなことをしているのですか?
夫人:まず製品を全て見たいと言いました。役員着任の初日は、リクシルのショウルームに行きました。それから、「これをどうやって売るか」ということを考えました。そして販売網は?ビジネスリスクは?地政学的リスクは?等、様々な問いを投げかけています。
WSJ:リクシルの中国子会社の不正会計問題に対する調査で、リクシル側の回答にあなたは満足していますか?
夫人:リクシルは正しい梶取りをしていると思います。中国でビジネスをするのはそもそもとても難しいことです。企業文化もビジネス風習も違います。中国でのビジネスは注意深く進めなければなりませんが、中国で問題が起きること自体珍しいことではないのです。大切なことは、今回の不正会計問題から、リクシルが大切なレッスンを学ぶことです。
WSJ:日本では、「日本語も日本文化もわからない外国人にいったい何ができるんだ」という意見もあります。
夫人:リクシルが素晴らしいのは、彼らが言語を言い訳やバリアにしないということです。リクシルにはいつも同時通訳者がいます。ボードミーティングでも不都合は全くありませんでした。
WSJ:日本語は少し話せるのでしょう?
夫人:「ありがとう」と「おはよう」くらいね。
インタビューは以上。
まだまだ日本企業の役員に占める女性の割合は、他のOECD諸国に比べて格段に低いとされています。それには、「ただ女性の頭数を増やしたからと言って企業業績が上がるわけではない」「そもそも役員候補となるような力量の女性そのものがいないし、役員職を望む女性の絶対数も少ない」などいろいろな理由があります。一つ言えるのは、ロールモデルがいないということでしょう。模範となるような女性役員がおらず、そしれ女性役員を活用している模範企業もない。このロールモデルが生まれると、後に続く企業が増えるかもしれません。
以上、Wall Street Journalより要約引用しました。
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