バイアウト・ファームで働くためにMBAは必要?
ビジネススクールに行くべきか、行かざるべきか。
米国のバイアウト・ファームで働く若手にとって、最近これが悩みどころです。
アメリカのプライベート・エクイティ(PE)業界や投資銀行業界で働く若手は、アナリストとして3年程度勤務した後、自主的にビジネススクールに行ってMBAを取得し、同業界でアソシエイト、Vice Presidentとタイトルを上げていくことが暗黙の了解のキャリアルートとなっていました。
しかし、近年ビジネススクールの学費は大幅上昇傾向にあり、年間10万ドル(約1200万円)も珍しくありません。過去10年間でハーバードやスタンフォードのビジネススクールの学費は50%も上昇しました。一方PE業界の若手の給与水準は金融の中でも群を抜いて高くなっています。パフォーマンスが良ければ100万ドル(1億2千万円)を下りません。
PEを一度辞めて2年間ビジネススクールに学費を払うことは、学費出費に加えて大きな給与機会損失となるのです。それに、2年後MBAを取得したとして、景気等の影響で同じバイアウト・ファームに戻れるとは限らず、更に厳しい就職競争に晒される可能性も高いのです。
若手がMBAを取得する為に一度辞職するという伝統について、バイアウト・ファーム側も見直しをしつつあります。約110億ドルを運用するシカゴのGTCRや、Blackstone Group、KKRやSilver Lake、Apollo Global Management LLC等大手のバイアウト・ファームでは、優秀なアナリストを継続して雇用し、MBAを取得しなくてもアソシエイトに昇格させるケースが出てきました。
PE業界やヘッジファンドへの若手のリクルーティングに携わるLong Ridge PartnersのGoodmanマネジング・ディレクターは「この15年程で、若手のMBAはMust-have(絶対条件)からNice-to-have(持っていると好条件)に変わりつつある」と述べています。
ビジネススクールではは経営学に加え、将来企業の経営陣になる上で欠かせないスキルや、志の高い同窓生とのネットワーキング(長年ビジネスに有効に作用することが多い無形財産)を獲得することができます。
しかし、バイアウト・ファームの中には、MBAを保有しないトップ・エグゼクティブも結構います。GTCRのパートナー4名の内、MBAを保有しているのは1名のみです。KKRのGlobal Capital及びアセットマネジメントのトップであるScott Nuttall氏もMBAを持っていません。
あるハーバード・ビジネススクールの卒業生は、MBAについてこう語っています。「多くの若手は、4-5年間金融業界で働くと、自分に何かが欠けていると思ったり、環境を変えてみたくなったりするものなんだ。
そういう若手にとって、ビジネススクールはビジネスマンとして成熟するための一つのいい機会となることが多い。でも、時にとても優秀な若手もいて、自分が働いている環境からビジネススクールで学ぶ以上のことを自主的に学んで自己を高めていくことができる才能を持った人物もいる。
そういう人にとってビジネススクールに行かなくてもキャリアを継続できるオプションがあるのは非常にいいことだと思う」
760億円を運用するBlackstoneのCEO Schwarzman氏は、有力な後継者候補のJon Gray氏について、「Jonは天才だ。彼はMBAを持っていないけれど、仮に彼がビジネススクールに行っていたとしても、ビジネススクールがJonを今以上素晴らしい人物にしてくれたとは思えないよ」と言っています。
以上、WSJに掲載されたものを要約引用しました。
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