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広がる学歴・職歴不問、米企業の採用基準緩和

 

米企業は従業員の採用プロセスを簡素化している。

 化粧品販売のボディショップは就職希望者の学歴要件を外し、経歴・身元調査(バックグラウンドチェック)もやめた。貨物輸送大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は一部の職種について、採用プロセスにかかる時間をわずか10分程度に短縮した。ドラッグストア運営のCVSは、就職を希望する大卒者に成績表の提出を求めないことにした。

 求人数が求職者数を上回っている現在の米労働市場で、各企業はより多くの就職希望者を呼び込み、採用する方法について知恵を絞っている。エコノミストや労働市場専門家によれば、こうした採用プロセスの変革は、職務資格に関する広範な見直しにつながる可能性がある。それは何百万人もの人々が、以前は手が届かなかった仕事を手に入れる助けになるかもしれないという。

 2008~09年の景気後退以来、状況が大きく変わった。当時は高い失業率と多数の求職者を背景に、米企業は応募者のえり好みができた。多くの企業は採用基準を引き上げた。例えば、それまで高卒者の仕事だったITヘルプデスクや建設現場監督などの採用条件として、大卒の学歴が求められた。就労経験の最低要件を引き上げる企業もあった。

 労働市場分析企業EMSIバーニング・グラスと民間調査機関コンファレンスボードの新たなデータによると、現在のペースで学歴要件の緩和が進めば、今後5年間で非大卒者に140万人分の雇用機会が開かれるとみられる。同データによれば、2019年1月には保険販売代理店の求人広告の42%で大卒の学歴が求められていたが、2021年9月にはその比率は26%に低下した。

 採用条件の緩和は、米国の成人人口の3分の2近くを占める非大卒者の一部に新たな就業機会を提供することになる。これらの人々は、大学の学位がなくても、高収入の多くの仕事をこなす技術や才能を持っているかもしれない。

 こうした変化はすでに、大卒者と非大卒者の失業率の格差縮小につながっている可能性がある。米労働省によれば、高卒者の失業率は10月には前月の5.8%から5.4%に低下した。一方、大卒者の失業率は2.5%から2.4%に低下した。

 こうした変化が一時的現象なのかどうかについて、雇用主やエコノミストの見方は分かれている。米国商工会議所財団の教育・労働センターのバイスプレジデントを務めるジェーソン・チズコー氏は「労働市場が今のような状況で、雇用主が採用条件を緩和するのは珍しくない」と述べ、雇用主は採用条件の一部を復活させることができると付け加えた。

 一方で、米国の労働人口の縮小が採用慣行を変化させる可能性がある。労働人口は新型コロナウイルス下で何百万人も減っており、一部のエコノミストは、労働参加率が今後コロナ前の水準に戻ることはないとの見方を示している。同時に、大卒という採用条件の価値を見直し、スキルに基づいた採用に注力する雇用主が増えている。

こうしたシフトの結果、かつて見過ごされていた応募者が労働力に加わる可能性がある。チズコー氏は「こうしたことに明るい兆しを見いだせる」と話す。

 あまり経験のない労働者を採用する企業は、訓練により多くの時間を割かなくてはならない可能性がある。加えて、新規採用者の中には、その仕事があまり好きでないと感じる者がいるかもしれない。しかし、労働市場が逼迫(ひっぱく)した状況において既に離職率の高さに悩んでいる企業には、選択肢がほとんどないかもしれない。

 人材関連企業の幹部によると、小売りやファストフードの業界では、従業員を90日間とどめておくことでさえ難しい。そのくらいの期間とどまった従業員にボーナスを出す企業があるのは、そのためでもある。

条件不問

 ボディショップは、米国の失業率が3.6%前後で推移していた2019年に、ノースカロライナ州ウェイクフォレストの配送センターで試験的なプログラムを導入した。薬物検査やバックグラウンドチェックから学歴・職歴に至るまでのほぼ全ての採用条件を撤廃した。

 同社は、やり直しの機会を求めている人や追加的な支援を必要とする人に求人案件を開放することで、不平等への対処を試みたと述べた。この結果、200人を超える季節労働者が入社した。

 ボディショップは昨年、条件不問の採用方針を季節労働者対象の全てのエントリーレベルの販売業務に拡大した。米州部門のニコラス・デブレー社長によると、試験的プログラムで採用された従業員のうち、仕事ぶりを理由に契約を終了した者の比率は、通常のプロセスを経て採用された従業員の場合と同程度だという。

 条件不問の採用方針は今年、同社の全てのエントリーレベルの販売および倉庫関連業務に適用された。9月半ばまでに733人がこのルートで入社し、80人が正社員になった。この制度では、求職者が米国で働くことが法的に認められている者でありさえすれば、採用担当者は以下のことだけを尋ねる。25ポンド(約11キロ。配送センターの場合は50ポンド)の物を持ち上げられるか、そして8時間のシフト勤務が可能かだ。販売業務希望者は、なぜ顧客対応の仕事がしたいのかを聞かれる。

スキルセット

 学歴条件の緩和はスキルに基づいた採用につながっており、このような雇用主の戦略は勢いを増している。学歴をスキルの代用として偏重せず、実際に示せる能力で採用の判断を下すということだ。

 CVSは今年に入り、大半のエントリーレベルの職について、高卒相当という条件を撤廃した。大卒者の採用にでも、成績の平均値(GPA)の提出を求めなくなった。

 CVSの人材獲得担当バイスプレジデント、ジェフ・ラッキー氏は、同社の方針を米自動車レースNASCARのチームの手法に例え、レースカーの速度を遅くするあらゆる不要な要素をはぎ取ると表現した。

 「必要なければ取り除け、ということだ」

 CVSは、学生時代の高いGPAが必ずしも仕事の高い成果に結び付かないことに気付いた。

 同社は近年、顧客と接する仕事についてバーチャル形式の適性試験の利用を拡大している。このロールプレーイング試験の目的は、エントリーレベルの応募者に実際に近い仕事内容を示す一方、採用担当のマネジャーが応募者の才能や技術を評価できるようにすることだ。これにより、高卒の要件を削除することが容易になった。

 「バーチャルジョブの適性試験に合格したら、それで十分だろう」とラッキー氏は言う。UPSの人事担当幹部らは数カ月前、休暇シーズン向けに10万人の季節労働者を雇用するには、採用方式を効率化する必要があることに気付いた。同社の調達・採用担当グローバルディレクター、マット・ラベリー氏によれば、同社はこの課題を調査した結果、給与計算上の理由か政府の監査対象で必要とされる場合を除き、募集の際の質問事項や採用上の手続きを廃止した。

同社は募集対象者の範囲を広げるため、季節労働者の募集では職歴についての詳細な質問を廃止した。人事担当幹部は採用のハードルを下げる別の方法を探るため、応募者が職を得るまでに同社ビルを訪問した回数を記録した。

 以前は2週間かかっていたUPSでの季節労働者の採用手続きは現在、30分以内で済むケースもある。ドライバー・ヘルパーなど一部の職種では面接を全く行わない。応募者はオンラインでの質問に回答すれば、わずか10分で条件付きの内定を受け取ることができる。

 オンラインでの試験に合格すれば、UPSの社員から通知を受ける。その後、入社し、仕事場所が告げられる。

 ラベリー氏は「現在の市場では、多少なりとも迅速に内定を出さなければ他社に取られてしまう」と語った。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/help-really-wanted-no-degree-work-experience-or-background-checks-11636196307?mod=Searchresults_pos3&page=1

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