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AI革命、企業はどう備えるべきか

 

ベンチャーキャピタリストの李開復氏に、企業そして雇用にAIが与える影響を聞く

ベンチャーキャピタリストの李開復(リー・カイフー)氏は、向こう10年で人工知能(AI)が企業や組織の仕事の効率化を無数の方法で支援するようになり、大きな変化の波が訪れるとみている。

ベンチャーキャピタル(VC)会社シノベーション・ベンチャーズの会長兼最高経営責任者(CEO)で自著「AI世界秩序 米中が支配する『雇用なき未来』」を最近刊行した李氏は先日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がバーチャルで主催した最高情報責任者(CIO)会議「CIOネットワーク」で、AIやCIOの役割について語った。

――企業については、どのようなAIの活用事例が最も有望とみているか

 AIは企業にとって極めて刺激的な技術だ。活用できるシナリオや部門は無数にある。

 大量のデータを投入すれば、顧客サービスやIT(情報技術)、人事、財務、営業など非常に多くの分野でスマートな判断や予測、分類ができるようになる。

 一つ例を挙げよう。企業は顧客から多くの電話を受け、質問や要望に応える必要がある。その仕事は現在、会社の知識データベースにアクセスできる人間がおおむね行っている。しかし、AIの方が会社の全てのデータを集めるのも、チャットボットインターフェースや電子メール、電話を通じて音声や文書で一貫した対応をするのも、はるかにうまい。

 そのようなインフラの構築には多大な労力が必要だ。しかし、文字や音声で質問を受けたり、答えを提供したり、会話をしたりすることは、ITインフラで最も容易に達成可能な業務の一つであり、それによって高い顧客満足度や一貫性、コスト低下をもたらせる。

――その事例は企業に有意な価値をもらすか

 確実にもたらす。それはもろ刃の剣だ。AIの活用がうまくいけばいくほど、仕事が置き換えられたり、廃止されたりして人員削減を招く可能性があるため、その点を考慮する必要がある。われわれは皆、AIによって仕事が奪われることよりも、利益率が上がることに主に目を向けたがっている。しかし、AIは総じて人間が行っている仕事や作業をこなすよう設計されているため、AIが担う仕事が増えれば増えるほど、人間の仕事に影響が及ぶことになる。

――ディープラーニング(深層学習)が本格化している。やはり企業が価値を見いだせる活用事例にはどのようなものがあるか

 AIや機械学習を実現するための主な方法がディープラーニングだ。覚えておく必要があるのは、その仕組みはわれわれの脳とはかなり異なることだ。われわれは、Aの場合はB、Cでない場合はDという風に考える。しかし、AIは違う。AIは膨大なデータを与えられ、正しい答えを教えられることによって学び、新たな事例に対処できるようになる。

 ディープラーニングは例えば、採用にも活用できる。企業には大量の履歴書が送られてくるが、それら履歴書と職務内容とを照らし合わせ、適切な部門責任者にそれを回す必要がある。AIコンピューターやビデオを介したやり取りを検討しているのであれば、AIにビデオ会議システムを介して候補者と面談させ、候補を絞り込める製品がある。AIはあらかじめプログラムされた質問に対する候補者の答えや顔の表情などに応じて点数を付け、特定の職務に適したIQ(知能指数)やEQ(心の知能指数)を持っているかを判定する。

 AIに販売担当者の行動や会話をチェックさせることもできる。会話が終わったら、AIから「契約にこぎ着けるには、もっとこうすればいい」と助言をもらえる。

 AIをマーケティングや営業に活用することも可能だ。電子メールの開封率や反応率を高めるためには、どのような内容や文言にすべきかをAIに判断させるのだ。また財務部では、提出された経費精算書をAIに自動的に確認させ、各部門長の承認を取らせ、処理させることができる。

 このようにタスクはさまざまだが、全てデータに基づいて実行される。ディープラーニングをアルゴリズムとして使用することで実行される。

――企業がAIに備え、最大限に活用できるようにするためには、CIOは特に何をする必要があるか

 CIOの責務は、インターネットの初期のそれと似ている。技術を理解し、それに関する疑問に答えられるようになり、いわば「伝道師」のようになる必要がある。AIが持つ意味は各部門によって異なる。

 基盤となるアルゴリズムは同じだが、各部門で応用方法が異なる。

 2番目に重要なのが、企業が構造化データを管理する一貫した手段を持てるようにすることだ。

 AIはデータを使用して訓練するため、データがなければ機能しない。単にプログラマーを雇ってやらせればいいというわけではない。プログラムが必要であり、データを使用してそれを訓練する必要がある

 したがって、CIOの主な仕事の一部は、企業のデータウエアハウス(訳注:意思決定に必要な情報を蓄積した業務データベース)を維持し、データのサイロ化(縦割り化)をチェックして障壁を取り除き、データスワンプをデータレイク化(訳注:混とんとした濁った沼地のようなデータを水が澄んだ湖のような状態に整理すること)し、データを連携できるようにすることだ。

――著書の中で、2033年までには、われわれの仕事の4~5割がAIやオートメーションでできるようになると述べているが、CIOはどのような準備をしておくべきか

 技術の進歩は常に仕事を奪ってきたことを忘れてはならない。今回は過去のそれよりも規模が大きいだろう。これに備えるため、CIOはCEOに助言できるようにしておくといいだろう。どのような方法が適切か、さまざまな仕事が取って代わられるが、それが繊細さを必要とするやり方で成し遂げられる可能性はどれほどか、といったことに関するアドバイスだ。そして、従業員の再訓練を始めるべきだ。仕事が実際に奪われ始めたら、その人たちが訓練を受け、新しい仕事に就けるよう手助けすべきだ。

――CIOの役割は向こう数年でどう変化する可能性があるか

 AIの専門家になる素晴らしいチャンスだ。また、技術の適応やコスト削減、利益率の向上、人事の変化という面で会社に貢献できるチャンスでもある。しかし、これを一度限りの変化とみなしてはならない。AIの初期段階では、CIOの役割は伝道師や何かあった場合に頼れる人、専門家といったものになる可能性が高い。時間がたつにつれ、AIは当たり前のものになるだろう。

 20年前を考えてみればいい。CIOの当初の役割は、インターネットとは何か、どのように使うべきかをマーケティング部や顧客サービス部に教えることだったのではないか。したがって、CIOは移行に向けて準備を整え、そうした責務を教え、インターネットのようにAIが普及するにつれ、その移行プロセスの中で自分がやるべきことをやれるようにしておくべきだ。

――あなたはスタートアップ企業との出会いが多いが、どのようなAIイノベーション(技術革新)を目にしているか

 私は中国を拠点にしているが、ご存じの通り、中国は世界の工場だ。したがって、この1年で目にした中で最も興奮したのはロボットだ。工場や倉庫にある非常にスマートなロボットが急速に進化するのを目の当たりにしている。そうしたロボットには柔らかい指があり、物をつかめるものもある。人間や人間の手足そっくりのロボットもある。しかし、大抵は機械のような見た目をしている。そこで、われわれが投資しているのが、巨大なラボ用ロボットだ。これはラボを完全に自動化するものだ。

新型コロナウイルスの検査用にしろ研究用にしろ、それは巨大な機械だ。機械や機械工学、ソフトウエアの進化が相まって、工場や倉庫の自動化が加速すると私はみている。そして、その分野に最もうってつけなのが、中国だ。

 米国では、コロナによって在宅勤務が非常に便利になった。そして、それは従業員のワークフローをデジタル化した。これにより、企業レベルで自動化が起きると私は考えている。米国の企業では業務や仕事をソフトウエアで自動化するのが、はるかに容易になり、一段と加速するだろう。

 これは興味深い。米国と中国は二つの異なる分野で頭角を現しているが、いずれも非常に革新的で刺激的だ。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/ais-impact-on-businessesand-jobs-11615234143?mod=searchresults_pos1&page=1

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