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CEOへの社内批判、もはやタブー視されず

 

企業の最高経営責任者(CEO)が投資家やメディアの辛辣な意見に直面することは日常よくある。だがこのところ一部のCEOは、より身近な存在である部下の批判にもさらされている。

 経営トップはかつて社内の批判から守られた存在だった。一部の例外を除き、不満がある従業員は仲間内で、またはタウンホールミーティング(対話集会)で苦情を言うのにとどめ、最も厳しい協議は通常、労働組合のリーダーが引き受けていた。

 だがビジネス向けチャットアプリ「スラック」など気軽にネット上で討論できる場ができたことで、従業員は雇用主に対し、確たる社会的良心を身につけるよう求めるほか、その経営スタイルを非難したり、退陣を求めたりもする場面も出てきた。

 圧力を受けるCEO側は「まるで世界中の人から怒鳴られている気がする」。企業のコミュニケーションや評判の管理について助言するバーンスタイン・クライシス・マネジメントのエリック・バーンスタイン社長はこう話す。2つの職場で最近起きた事態――旅行かばんのネット通販会社アウェーと、デッドスピンやギズモードといった元ゴーカー・メディアのサイトを運営するG/Oメディア――は、リーダーがより率直な従業員の審判を受ける場合があることを浮き彫りにした。いずれの会社も不満を抱く従業員が中心となり、CEOの気に入らない行動や判断を巡って圧力をかけようとした。

 アウェーでは、共同創業者のステフ・コリー氏が昨年12月、CEOを辞任すると発表。IT(情報技術)ニュースサイト「ザ・バージ」の記事に、複数の元従業員が同氏の経営スタイルを批判した言葉が引用され、また従業員を批判したコリー氏のスラックのログが掲載された。自らの行動が「誤りだったのは単純明快」と同氏はツイートした。だがその後前言を撤回し、同氏は共同CEOにとどまると表明。厳しいソーシャルメディア(SNS)の反応に屈し、退陣を決めたのは判断ミスだったと述べた。

 G/Oメディアでは、同社の経営権を持つプライベートエクイティ投資会社に対し、編集部門の労組がジム・スパンフェラーCEOの交代を要求。組合員125人の連名で送付された書簡の中で、同氏の指揮下でウェブトラフィックが落ち込み、従業員の離職が増えたと主張した。だがG/Oメディアを所有するグレートヒル・パートナーズの広報担当者は、この書簡が経営陣と従業員の対立を誘発するとし、「会社にも共に働く同僚にも害を及ぼす意図がある」と断じた。

大企業も対応模索

 こうしたエピソードの背景には、企業が若くて有能な働き手を引きつけようとし、従業員は自分の仕事に一段と高い目標を求め、雇用主と自身の価値観を重ね合わせようとすることがある。これに対し、ウォルマートのダグ・マクミロン氏のような著名CEOは、働き手にとって重要な問題について積極的に発言し、オープンな議論や従業員のフィードバックを促す職場文化を育てようとしている。

 一般的に従業員に発言権を与えると上司への批判にも扉を開く。多くの企業にとってこれは開放性と透明性のもろ刃の剣であり、新世代のCEOが取り組んでいる課題だ。

 また、グラスドアのような企業口コミサイトでは、従業員が匿名で雇用主やCEOの評価を下すことができ、従業員がリーダーをどうみているかを外部から垣間見られる。

 リーダー批判でよく知られている一例は、オープンな社風で知られる米アルファベット傘下グーグルで1年余り前に起きた一斉ストライキだ。性的嫌がらせ(セクハラ)の訴えへの経営陣の対応に抗議し、2万人の従業員が世界中でストを実施。この事態を受け、スンダー・ピチャイCEOはハラスメントの対処方法を改善すると約束した。

 グーグルは最近、政治やその他論争になりやすい問題を議論する際、礼儀を守るための新たなガイドラインを設けた。また複数の従業員を任命し、今までほぼ禁じ手なしだった社内メッセージボードを管理させることにした。

 ペンシルベニア州立大学スミール・カレッジ・オブ・ビジネスのドナルド・ハンブリック教授(経営学)によると、一般に従業員が自由に書き込める社内のネット掲示板などはガス抜きの働きをする。彼らは上司批判を公にすることに対する懸念を抱くことなく、リーダーにフィードバックや批判を提示できるからだ。

 だがそうしたはけ口がない従業員は、不満を社外に公表することが唯一の選択肢だと考えるかもしれない。

 ティッシュペーパー「クリネックス」や紙おむつ「ハギーズ」を製造する米日用品大手キンバリークラークでは、従業員が社内ブログを通じてマイク・スーCEOに直接意見を言える。これは前任者から続く仕組みだ。同社によるとスー氏は全コメントに目を通し、いくつかの基本ルールに従っている限りは決して削除しない。すなわち、投稿者の名前を明記する、機密情報の開示は控える、そして「偽りなく、思いやりをもって」伝えることだ。

スー氏がこのブログで今年1月、新任幹部への祝辞を述べたところ、祝賀ムードと程遠い反応が1件返ってきた。組織再編の一環で閉鎖された工場の作業員だった。上層部には新しい任務を心待ちにする人もいるだろうが、自分は失業申請の準備をしているという内容だった。

 キンバリークラークの広報担当者は、スー氏はこのようなフィードバックも歓迎すると述べた。

 各企業は依然として、上層部を公に批判する従業員が増えることで生じる危機への対応を模索している。風評・危機管理会社テミンのダビア・テミンCEOはこう話す。

 「これは新しい能力だ。ビジネススクールで学ぶリーダーの通常の能力では対処しきれない」とテミン氏は言う。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/employees-speak-outagainst-their-ceos-11580553000?mod=searchresults&page=1&pos=1

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