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シリコンバレーから消える中国マネー、蜜月から一転

 

中国人投資家はかつて、その財力と世界最大かつ最難関である中国市場へのアクセス提供という面からシリコンバレーで歓迎されていた。だが今、状況は一変している。米中関係の緊張激化を受け、中国系VCは昨年終盤から米国での投資を後退させている。また、規制を回避するため新たな方法で取引を交わすようになったり、米国拠点を閉鎖したりしている。一部の米投資会社は、中国との有限合資会社を解消したり、特殊な取引構造によって中国系VCの存在を分かりにくくしたりしている。また、中国系VCから巨額の投資を受けている一部の米新興企業は、そうした投資を表に出さなかったり、当局に目をつけられないよう中国人投資家を排除したりしている。

シリコンバレーのスタートアップ企業、パイロットAIが初の大口出資を受けたのは、中国系ベンチャーキャピタル(VC)のデジタル・ホライゾン・キャピタルからだった。だが昨夏までには、その出資を引き揚げて欲しいと考えるようになっていた。パイロットAIの業務に詳しい複数の関係者によると、同社は米国防総省の仕事をきっかけに人工知能(AI)ソフトの米政府向け販売を拡大しようとしていたが、その努力がデジタル・ホライゾンと中国政府のつながりで台無しになることを懸念していた。株を手放すことを要請されたデジタル・ホライゾンの張首晟・会長は怒って拒否したという。

シリコンバレーから消える中国マネー、蜜月から一転

 調査会社ロジウム・グループによると、米スタートアップ企業に対する中国マネーの投資は2018年初めに過去最高に達したが、同年5月から減速し始めた。中国国有企業による投資は昨年末にはほぼゼロになったという。また、米企業の買収を含む中国の対米直接投資は2016年は460億ドル(約5兆円)だったが、2018年には9割減の50億ドルにまで落ち込んだ。

 こうした背景には、米国の経済的・軍事的優位が脅かされるのを警戒した米政府が、人材や技術の流出阻止に乗り出したことがある。一部の中国人投資家は、米中貿易交渉が今年4月に合意に至り、投資の道が再び開かれることを期待していた。しかし、現実には追加関税の応酬と事態はエスカレートした。

 米政府は昨夏、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する法案を成立させた。外資によるIT(情報技術)関連投資の審査対象を拡大するものだ。これにより、機密技術を開発する企業への投資が制限され、手続きの煩雑化で米スタートアップ企業への投資は魅力が弱まった。

 時を同じくして米上院議員とトランプ政権関係者の一団は、シリコンバレーの企業や投資家と非公式の会合を開き、中国とビジネスをする上でのリスクについて警告した。

シリコンバレーから消える中国マネー、蜜月から一転

 米通商代表部(USTR)は昨年11月の報告書で、米国の技術を盗み出す中国の取り組みについて批判。中国政府と関連のあるVCがいかにして米企業の知的財産を入手しているかを指摘した。その中で、デジタル・ホライゾンの狙いは米国の技術を中国に持ち出すことにあるとして名指しで非難した。

 デジタル・ホライゾンはかつて「丹華資本(ダンファ・キャピタル)」の名で知られ、中国国有企業の中関村発展集団の投資部門などから出資を受けている。

 シリコンバレーで最も活発な中国系VCの1つであるデジタル・ホライゾンは、米大手VCと共に約5000万ドルを調達し、多くの米スタートアップ企業に投資している。調査会社ピッチブックによると、シリコンバレーがまだ中国資本を積極的に受け入れていた2015年当時、デジタル・ホライゾンはパイロットAIへの約50万ドルの出資を主導し、同社にとって最初の大口出資者となった。

 だが昨年半ばには、環境が劇的に変化していた。ドナルド・トランプ大統領が対中関税を発動し、議会がCFIUSの対米投資審査権限の強化に動いたためだ。米政府とのビジネス拡大を目指していたパイロットAIは昨夏、デジタル・ホライゾンに株を手放してもらうのが賢明だと判断した。事情に詳しい関係者によると、デジタル・ホライゾンの張会長が株を手放すよう要請されたのはこのときだった。

米国の政治家は中国マネーとシリコンバレーの結びつきを難しくすることがポイントだと話す。連邦捜査局(FBI)も、中国による知的財産窃盗の脅威に警戒するよう企業への働きかけを強めている。十数人の捜査官と分析官で構成するチームをサンフランシスコのオフィスに設け、各企業と協力している。最近、知的財産の窃盗をいかに回避するかについて指南する文書も出した。FBI当局は、サイバーセキュリティーの脅威や経済スパイに関する企業向け説明会も数多く実施している。中国に渡航する際はいつも使用しているスマートフォンやノートパソコンは使用しないよう助言し、企業の男性幹部には魅力的な女性によるハニートラップに引っかからないよう注意を促している。

中国の検索大手、百度(バイドゥ)が主に出資するVC、百度風投(バイドゥ・ベンチャー)のパートナーを務めるサマン・ファリド氏は、CFIUSの審査を避けるため一部投資の構造を変えていると話す。同氏によると、バイドゥ・ベンチャーでは気に入った企業があった場合、別の投資家に出資の主導を依頼し、その投資家に議決権を譲り渡している。また、そうやって投資した企業に取締役を送り込むことも控えているという。

 中国の複合企業、復星国際の投資部門である復星資本のマネジングディレクターを務める徐敏毅氏は、「環境が厳しくなっている」のを理由に、機密技術を扱う米企業への投資は避けていると述べた。

 アリババ・グループ・ホールディングのVC部門に詳しい2人の関係者によると、同社では投資先を米国以外に移しつつある。アリババは、もともと規制当局の動きには注意を払っていた。昨夏、自動運転車向けの地図作製技術を手掛ける米企業ディープマップに投資した際も、出資比率を7%前後に抑えることでCFIUSの審査を回避した。

ディープマップは昨夏の資金調達のあと、新たな投資家の一部を公表した。アリババは最大の出資者であるにもかかわらず、そこに名前は見当たらなかった。ディープマップの広報担当者は、アリババから名前を伏せるよう要請されたと述べた。ディープマップの共同創設者であるジェームズ・ウCEOは、中国人投資家の一部は公表していないと説明。「大きな騒ぎは望んでいない」と述べた。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。https://www.wsj.com/articles/chinese-cash-is-suddenly-toxic-in-silicon-valley-following-u-s-pressure-campaign-11560263302?mod=searchresults&page=1&pos=1

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