アルファベット研究部門「X」のトップが語る未来
企業が成長していくためにはイノベーションが欠かせない。アストロ・テラー氏は、グーグルの親会社、アルファベットの研究部門「X(エックス)」の統括者であり、日々グローバルな問題に対する革新的な解決策を模索している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、非常に興味深い同氏へのインタビュー記事があったので紹介する。
アストロ・テラー氏は、会議から会議へ歩いて移動するのは時間がかかりすぎると気づき、社内をインラインスケートで移動するようになった。同氏にとって、こうした実践的な問題解決は仕事の中核をなすものだ。2010年以降、Xが追求してきた「ムーンショット」(グローバルな問題に対する革新的な解決策)の成果は一様ではない。眼鏡型ウエアラブル端末「グーグル・グラス」が、イノベーションの失敗例とされる一方で、2016年にXから分離・独立した自動運転車開発部門「ウェイモ」は、モルガン・スタンレーの最新の試算で評価額が1億7500万ドル(約197億円)に達した(アルファベットの時価総額の5分の1に相当)。
今夏、さらに2つの有望なプロジェクトがXから「卒業」した。「ウイング(Wing)」は大型の凧(たこ)くらいの自動飛行ドローンを使い、食品や医薬品を配達する取り組みで、オーストラリアの地方部でサービスを開始。「ルーン(Loon)」は、気球を使って上空からインターネットアクセスを提供する。昨年、大型ハリケーン「マリア」が襲来し、インフラが打撃を受けたプエルトリコではこれが活躍した。
以下、テラー氏が、研究開発の失敗をいとわない姿勢や人工知能(AI)の今後、テクノロジーが解決できない問題などについて語ったインタビュー内容である。
質問:「X」について教えてほしい
グーグルを創業したラリー・ページとサーゲイ・ブリンは10年前、大企業は従来の問題を解決し続けるだけでなく、自ら脱皮し、新たな問題に挑戦する必要があると理解していた。彼らがXを立ち上げたのは、長い時間を要する問題に取り組んでほしかったからだ。われわれの仕事はアルファベットのために新しいビジネスを作ることだ。願わくは、グーグルがこれまでやってきたように世界のために役立ち、価値のあるものにしたい。ハードルは高いが、われわれの抱く大志でもある。
われわれのプロジェクトは、未来のビジョンに向けたロードマップであり、「なぜ」「どのように」が適度に混じっている。ウェイモの草創期には、社内でビジネスモデルの議論すらなかった。話はいつもこんな風に始まる。未来の車は車自身が運転するだろう、なぜって基本的に人間が運転するより安全だから――。すると次に疑問が浮かぶ。人間よりも安全な方法で自動的に運転する車を本当に作れるのか? もしできるのなら、それは大きなビジネスになる。そして世界にとって偉大なことだ。もしできなければ、他のことをやるべきだ。それが未来に対するビジョンだ。
質問:「X」の失敗率はどのくらいか。
正確な数字はわからない。恐らく50:50より若干良いが、大幅に上回ることはない。場合によっては、Xのプロジェクトがグーグルに引き取られたり、ベンチャーキャピタル(VC)の支援を受けて独立したりすることもあるし、実際、それは何度もあったことだ。それを狙っているわけではない。
私は失敗の大提唱者だが、失敗は大嫌いだ。失敗は擁護するが、望んでいるのは成功だ。失敗は現時点で間違いをしでかすのをいとわないくらい強く成功を望んでいるからこそ擁護されると思っている。成功を望み続けるのは実は難しい。頭に浮かんだアイデアの99%は実現しないのだから。
質問:未来の生活に最も影響を与えるのはどんなテクノロジーだと思うか。
そうしたテクノロジーをいくつも挙げる予言者は大勢いる。あえて警告すると、予想はいつも外れるものだ。10年後、20年後に何が重要かは知るよしもない。最近よく話題になるのはAIや機械学習だ。私はこう捉えている。20世紀は物理的な強度と機械的な性能や信頼性を備え、そこにいくらか電気を流して動かしたり、機能させたりした時代。21世紀はさらに知能を搭載し、安全性や信頼性、機能性を高めることを目指す。自動車の安全対策は、20世紀はブロック壁に車を激突させ、車内のマネキンが衝撃に耐えられるかを調べることだった。21世紀にはどうすれば車が壁にぶつからないかという問題に変わる。ほぼ全ての物理的な問題がこうなるだろう。
質問:未来の人々は、AIに依存して製品やビジネスを生み出すのか。
1970年代ごろから新たな手段として、問題解決にマイクロプロセッサーが使われ始めた。問題の解決手段を考える際、少なくともマイクロプロセッサーを選択肢に入れるのが当たり前になった。AI(特に機械学習)も同じような経過をたどると思う。
Wingを例に挙げると、自動飛行する配達用ドローンは、荷物をどこに置けばよいかを衛星画像と公開されている上空からの画像を使って判断する。あれは樹木なのか芝生なのか。あの青いものは裏庭のトランポリンなのか、温水浴槽またはプールに張られた水なのか。これは本当に重要な問題だ。危険がなく、道路の真ん中でもない場所に安心して置かなくてはならない。人間がその場で指示を出すのはコストが高くつきすぎる。こうした問題は機械学習を使って解決できる。
質問:未来について最も懸念していることは。
別のカテゴリーに属する2つの問題を挙げよう。気候変動はわれわれの存亡に関わる最大の脅威だろう。今後人類に降りかかる事態の中で最悪かもしれない。それから人類が解決可能な最大の問題は、女性たちがその価値を生み出す能力に比べ、いかに過小評価されているかだ。もし女性が十分参加していれば、気候変動を含め、多くの問題がもっと迅速に改善するだろう。
質問:それはXで取り組むプロジェクトか。
いや。別のカテゴリーだと言ったのはそのためだ。リテラシーは世界最大の問題の1つでもあり、世界の重大な問題全体のボトルネックになっているとも言える。われわれは画期的なテクノロジーを使って物事を解決しようとするが、今後そのリストに気候変動や食糧生産、ヘルスケアなどが含まれるだろう。一方、貧困、リテラシー、性差別など、テクロノジーを使って解決することはできないかもしれない問題もある。しかし、それだから重大な問題でないということでは決してない。
質問:逆に、最もワクワクしていることは。
人類は選択肢をすべて使い切ると、正しいことをして問題の解決策を見つける傾向がある。今後もそれが続くことを願っている。つまり、物事はいつも完璧な直線で進むわけではない。歴史は弧を描くように徐々に正義の方向に進み、人々の生活をよくしてきた。われわれがテクノロジーに取り組むことで、そんな世界にいくらかでも役立てればよいと願っている。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
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