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伝統を破壊するゴールドマン次期CEOと今後の戦略

 

ゴールドマン・サックス・グループのロイド・ブランクファイン最高経営責任者(CEO)は同グループを率いて金融危機を乗り切り、その生き残りを確実にした。次のリーダーに与えられる課題は劇的に変化した危機後の世界でゴールドマンをどう繁栄に導くかだ。

ゴールドマンは7月17日、デービッド・ソロモン社長兼最高執行責任者(COO)が10月1日付でブランクファイン氏の後任としてCEOに就任すると発表した。この動きは同社の危機後の時代を締めくくる象徴となる。同社は秘密主義的な大手トレーディング会社から機敏かつ起業家的な場所へと変わり続けているが、その変化を後押しすることにもなる。

56歳のソロモン氏には事業構築の実績があり、ゴールドマンが自社流へのこだわりを弱める必要性について強く訴えてきた。彼は押しの強いトレーダーでも古い型にはまった気取り屋のバンカーでもなく、1999年にパートナーとしてゴールドマンに加わって以来、キャリアのほぼ全てをマネジメントに費やしてきた。

ソロモン氏は既に、より迅速な決断力を持ち、オープンかつ組織だった企業を目指すための方針を打ち出している。社内では、パートナーシップ制の緩い運用を数十年間続けていたゴールドマンがなかなか受け入れようとしない企業規律の導入を、ソロモン氏が押し進めるのではないかと期待されている。同氏による最初の取り組みの一つは、各部門の責任者に3年分の運営予算案の提出を要求することだ。同氏はまた、新規事業のアイデアや買収先を探す戦略チームを設置し、女性の幹部登用も訴えてきた。

ソロモン氏は1年3カ月にわたる次期CEO選考過程に勝ち、後継者候補の座を確実にした。対抗馬であったのはハービー・シュワルツ共同社長。シュワルツ氏は、ゴールドマンのトレーディング部門出身というブランクファイン氏の足跡をたどり、最高財務責任者(CFO)を務めていた4年間で投資家や規制当局を相手にゴールドマンの事業対応をしており、一時は次期CEOの座確実と言われていた。が、同氏はソロモン氏の勝利が明らかになった今年3月に辞任した。7月17日にこの結果が正式に発表され、ソロモン氏が9月末のブランクファインCEO辞職に向けて準備する道筋が整った。

ブランクファイン氏の下、ゴールドマンはトレーディング能力と政治的影響力によってウォールストリートを支配するようになった。しかし、金融危機後の世界では苦戦し、金融危機以降10年間で半減したトレーディング収益の穴を埋めるために一般個人や法人向けの商業銀行業務といった不慣れな分野に手を伸ばしている。

金融危機後の厳しい規制導入や、顧客動向の変化が相まって金融界の全ての証券部門が打撃を受けてきたが、その中で最も大きなダメージを受けたのがトレーディングの比重が大きいゴールドマンだった。社債や原油、金利スワップなどを扱う同社部門は、以前は10億ドルを稼ぐのに要した日数は10日ほどだった。だが昨年は平均10週間かかった。

新たな利益を求め、ゴールドマンは遅ればせながら一般個人向け銀行業務と企業の現金管理業務に乗り出した。 JPモルガン ・チェースやシティグループが得意とするメインストリート(実業界)部門で彼らに挑もうとしているのだ。ゴールドマンは2020年までに年間収入を50億ドル増やす目標を掲げ、新規事業を構築し目標を達成する能力を示すプレッシャーを受けている。

ブランクファイン氏の反対押し切って

ソロモン氏はゴールドマン最古の伝統の一部を絶えず見直してきた。

JPモルガンや ウォルマート といった大企業は毎年「投資家デー」を開催し、株主やアナリストに最新情報や幹部と交流する場を提供しているが、ゴールドマンは開催したことがない。だが複数の関係者によれば、ソロモン氏は早ければ来年の開催を計画するよう幹部に指示した。

ソロモン氏はゴールドマンの強力な経営委員会の変更についても協議しているという。毎週月曜に会合を持つこの委員会は、少数のパートナーが会社の戦略を決めていた上場前のゴールドマン時代から続いている。関係者らによれば、ソロモン氏は同委員会を縮小させるかもっと小さい経営陣のグループを別途作る案について議論してきた。人事や法務といった非収益部門の幹部が権限の劣る広範な運営委員会に移される可能性がある。

2018年のパートナー層の選出に関する議論では、ソロモン氏は従来より小さな層(100人を切るのはほぼ確実)を提言してきたという。バンカーやトレーダー、収益を生む他の従業員の割合を高め、コンプライアンスやオペレーションといった部門を低めにする案だ。

また、女性幹部の少なさをはじめとするダイバーシティ(多様性)の問題を取り上げてきた。今年秋に入社する大卒者は女性の割合が48%。21年までには同率にする目標だ。

昨秋にはブランクファイン氏の反対を押し切ってベス・ハマック氏を財務責任者に昇進させた。数少ない女性管理職の一人だったハマック氏について、ブランクファイン氏は当時のトレーディング部門にとどまった方が真価を発揮できると考えていたとされる。ソロモン氏はハマック氏を昇進させればゴールドマンが幹部のジェンダーギャップ解消に真剣に取り組んでいるメッセージになると主張した。

伝統に固執せず、多彩な趣味を持つ永遠の運動機関

ソロモン氏の金融界入りは1980年代半ば。駆け出しの頃はジャンク債の世界で過ごした。大学時代の友人の間ではスキー旅行やレンタル別荘での夏の休暇を計画するなどプランナーを務めた。別荘でルームメートが朝起きるとソロモン氏が芝生を刈っていたこともあった。

その後、ソロモン・ブラザーズとベア・スターンズを経て1999年にパートナーとしてゴールドマンに加わり(社外の人間がいきなりパートナーになるのは異例)、ジャンク債事業の構築に取り掛かった。その後10年にわたって投資銀行部門を運営し、ウォール街で最大の収入をたたき出すプロ集団へと変貌させた。

ソロモン氏は従業員の下位5%にはボーナスを支給しない厳しい方針を掲げていた。ソロモン氏が構築した法人向け融資および債券引き受け事業は昨年、記録的な収入を生んだ。

2012年には西海岸での会合の企画業務を引き継いだ。会合の狙いは、有望な新興企業との関係強化に貢献しそうな起業家との関係を構築することだ。

当時ゴールドマンの副社長だったウィル・マクドナー氏は当初の打ち合わせについて、「将官のように急に現れ、命令をがなり立て、担当を割り振った」と振り返った。「彼はそのアイデアの成功を見込み、厳しい規律を持ち込んだ。面食らったがうまくいったことを覚えている」

この起業家向け会合は新興企業の創業者やベンチャーキャピタリストにとって今や必須のイベントとなった。ゴールドマンの投資銀行部門にとってはビジネスのタネの重要な「仕入れ元」になっている。

仕事から離れると、ソロモン氏はスキーやカイトサーフィンに興じたり、別荘のあるバハマの会員制リゾートでDJをしたりしている。最近では スポティファイ のストリーミングサービスで、D-Solの芸名でリミックスの初シングルも発表した。また、ニューヨークで3店目となる飲食店「レガシーレコーズ」をマンハッタンのウエストサイドにオープンさせた。

ソロモン氏はゴールドマン退社も検討したこともあった。2014年にはラスベガスの重鎮シェルドン・アデルソン氏のカジノ帝国を経営する話を断った。

忍耐のかいもあって、金融部門で羨望(せんぼう)の的になっている仕事を得た。ゴールドマンは課題を抱えているもののウォール街の力強い象徴であることに変わりはなく、それを経営してきた男たち(これまで女性CEOはいない)の意見は業界で重視されることが多い。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

https://www.wsj.com/articles/goldman-sachs-is-secretive-and-hide-bound-its-new-chief-wants-to-change-that-1531837427?mod=searchresults&page=1&pos=1

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