米メディア再編の号砲 AT&Tとワーナー統合へ
米通信大手AT&Tによる米メディア大手タイムワーナー買収が12日、米連邦地裁から認められた。自ら作品を制作・配信する米ネットフリックスの台頭で、改めて認識され始めたのは「コンテンツ」の力だ。今回の判決を追い風に、通信・メディア業界では消費者に人気があるコンテンツを巡る争奪戦が一段と激しくなりそうだ。
米連邦地裁は今回、映像作品を流す通信会社と作品を作るメディア企業の「垂直統合」を認めた。一部資産の売却なども求めなかった。AT&Tは「判決に満足している」とのコメントを発表。司法省が上訴する可能性は残るが、20日までに買収を完了させる考えだ。両社は2016年10月に、854億ドルでの買収で合意していた。
ドナルド・トランプ政権下の司法省は、AT&Tとタイム・ワーナーの合併は消費者にとって選択肢の減少と値上がり、そして技術革新の遅れをもたらす可能性があるとして異議を唱えた。だが今後はM&Aブームの阻止に苦戦するだろう。裁判所のレオン判事は上訴しないよう司法省に忠告したが、政府が上訴する可能性はまだある。しかし、司法省の反トラスト法(独占禁止法)を巡る取り締まりの勢いは大幅にそがれた。
今回の判決の影響をすぐに受けそうなのが、米ウォルト・ディズニーによる米メディア大手、21世紀フォックスの買収計画だ。米通信会社のコムキャストはかねてAT&Tが目指す垂直統合が認められれば、自らもディズニー以上の価格・条件でフォックスを買収する意向を示してきた。近日中に正式提案するとみられ、ディズニーとの買収合戦に発展する可能性が高い。コムキャストの株価は今回の判断を受けて下落した。コムキャストがディズニーに対抗しようとフォックスの資産に過剰な金額を支払うことを投資家が懸念したためだ。ディズニーは525億ドルの株式交換による買収を提案している。
AT&Tとライバル関係にある米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズも対応を迫られる。米3大ネットワークのひとつCBSや、傘下に米パラマウント・ピクチャーズを抱える米メディア大手のバイアコムなどが有力な買収候補にあがる。
通信会社同士の「水平統合」である米スプリントとTモバイルUSの合併計画にも影響が出そうだ。4月の統合発表時には、当局に承認されるかが不安視された。業界2位のAT&Tがより巨大化することが決定的となった今、3位と4位は統合の正当性をより主張しやすい。当面は統合完了が最優先課題だが、いずれはメディア企業の買収も模索するとみられる。
次世代通信規格「5G」が商用化されれば、今より高速で大容量の通信が可能になる。通信会社の競争は速さや容量などのインフラ設備から、その通信網を使って提供するサービスに移っていくのは確実だ。その一つの解が、AT&Tが目指す映像コンテンツとの融合といえる。日本でも大手通信会社が、動画サービスを手掛ける新興企業を取り込む動きがある。
ネットフリックスなど動画配信サービスの登場で、人々はネット回線を通じてテレビやパソコン、スマホで映画やドラマを気楽に楽しめるようになった。ネットフリックスの全世界の会員数は1億2500万人(3月末時点)。従来のケーブルテレビや映画産業は客を奪われ、通信・メディア業界の大再編につながった。
今後は消費者に提供できるコンテンツの質・量が問われる。ディズニーはネットフリックスへの供給をやめ、19年には自前の動画配信サービスを始める。フォックス買収計画はそのサービスで配信できる作品を増やす狙いだが、同様の思惑を持つコムキャストの横やりで計画は狂いつつある。
業界再編を引き起こしたネットフリックス自身も、魅力的なコンテンツをそろえるために苦心している。外部の人気作品が引き揚げを決める中、有名俳優の起用や有力プロデューサーの引き抜きなどで独自作品に巨額を投じざるを得ない。同社の18年の制作費は前年より20億ドル多い80億ドルで、利益を圧迫している。
消費者の時間と予算は有限だ。デロイトの17年11月の調査によると、米国の50歳以下の世代はすでに週に20時間前後を配信サービスに費やしている。限られたパイを巡る激しい争いを制した企業だけが、最終的に生き残ることができる。
以上、日本経済新聞より要約・引用しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31698170T10C18A6TJC000/
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