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超富裕層、お金と幸福度の関係

 

自力で稼いだ資産か、相続資産か

 

歴史上で最も裕福だといわれた米実業家に「鉄鋼王」のアンドリュー・カーネギー(1835-1919年)がいるが、彼は、莫大(ばくだい)な富が自身の相続人に与えるかもしれない影響に頭を悩ませていた。彼は、親が子に「莫大な財産を残すと、概してその子の才能とやる気がそがれ、財産を受け継がなかった場合ほど有益で価値ある人生を送れなくなる」と考えていた。

 カーネギーの不安を知れば、二つの疑問がわく。一つ目は、超富裕層にとって富は一層の幸せにつながるのかという疑問。そして二つ目は、自分で稼いだ場合と富を受け継いだ場合では、得られる幸福度に差があるのかという問題だ。

お金と幸せとの関係は何十年にもわたって研究されてきた。一般的には、お金と幸せに関係はあるが、「収穫逓減の法則」が働くと言われている。つまり、年収5万ドル(約570万円)の人と年収7万5000ドルの人では、幸福度の差は年収7万5000ドルの人と、さらに2万5000ドル多い年収10万ドルの人の差より大きい。持つお金が増えれば増えるほど、お金の貢献度は下がるようだ。実際、ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン、アンガス・ディートン両氏の研究によると、収入増が幸福度にもたらす効果は、年収7万5000ドル前後で減退することが示されている。その理由の一つには、年収がそれ以上増えても、人が快適な生活を送る能力にそれほど大きな影響が及ばない公算が大きいという事情がある。

だが、今まで行われてきたこの手の研究のほぼ全てに、一つの注意点がある。ミリオネア(百万長者=純資産100万ドル以上の富裕層)は、平均的な収入の人ほど調査に協力的でないため、調査結果の中で彼らの占めるサンプルの比重が過度に低いという点だ。これとは対照的に、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が行った今回の調査は、百万長者のサンプル数が多いという点で初めてのものだ。WSJは独マンハイム大学のティエンイー・ツェン(Tianyi Zheng)氏と資産運用会社ブラックロックのエミリー・ヘイスリー氏の協力を得て、ある金融機関の富裕顧客4000人以上のサンプルを対象に富と幸福度について調査した。

これほど大きなグループだと、超富裕層において富が幸せにどう影響するかに関してもっと正確なデータが得られる可能性がある。過去の研究で、超富裕層の比重が過度に低いのと対照的だ。また今回の研究によって、2万5000ドルずつ(訳注=研究では、これを増分の単位としている)何十回も何百回も資産が積み重なっていくごとに、実際の幸福度の差が生じるのか否かを詳しく調べることが可能になった。

調査対象となった回答者たちは、人生全般の幸福度や、現在の純資産額に関する質問に答えた。純資産額は、預金、投資や資産の総額から債務を差し引いて算出した。

では、2万5000ドルが数多く積み上がって資産が増えていくと、幸福度もそれだけ上がって帳尻が合うだろうか。調査対象となった超富裕層(純資産がおよそ1000万ドルないしそれ以上と回答した人)の幸福度は、純資産が「わずか」100万ないし200万ドルと回答した人より大きかった。だがその程度は小さく、超富裕層の幸福度は10点満点で純資産100万-200万ドルの層より0.25点高いにとどまった。純資産額が何百万ドルも増えることは、幸福度の高まりと関連づけられたものの、人生を一変させるほどではないということだ。

それでは、富に起因する資産家の満足度は、それが自ら稼いだ資産か、あるいは継承した資産かに左右されるだろうか?

回答者たちは、自分の富の主要な源泉が自分で稼いだものだと報告したグループと、自ら稼いだものではなく、遺産相続または結婚を通じて(いわば玉の輿に乗って)富を得たと報告したグループに分けられた。富の増加はいずれのグループにとっても幸福度の高まりと関係していたものの、富を自分で稼いだ人々は、主として富を継承したか結婚して富を得た人々よりも相当大きな幸福を感じたと報告した。もちろん、自分で稼いだ人々と、富を継承した人々との間には、他の違いも存在する公算が大きい。だが、この調査結果は、冒頭で紹介したカーネギーの推測を支持するものだ。

総合すると、今回の研究は、並外れて裕福な人々は「普通の」富裕層よりも、それなりに大きな満足感を得ていること、そして富を獲得した手法(稼ぐか、継承するか)は、その富から引き出される幸福感に影響することを示唆している。

百万長者は、自分たちの富からもっと幸福感を引き出せるだろうか? カーネギーは一つの解決策を編み出した。彼は晩年に、自分の富のほぼ全てを慈善団体や財団、大学に寄付し、自分の跡継ぎが富を継承できないようにした。彼の解決策はもっと大きな知恵ももたらした。研究では、他人に与えることで、自己のために支出するよりも大きな幸福感が得られることが分かっている。つまり、カーネギーは自分自身の幸福を最大限にする公算が大きい手法で富を使っていたのだ。

カーネギーの戦略は評判が良く、後年の資産家たちにも引き継がれた。ビル・ゲイツとウォーレン・バフェット両氏が2010年に開始した寄付啓蒙活動「ギビング・プレッジ(寄付誓約宣言)」は資産家に対し、資産の半分以上を慈善活動に寄付するよう奨励した。これに賛同して署名した億万長者(ビリオネア)や百万長者は170人強に達した。この戦略が慈善活動の受益者の役に立っているだけでなく、資産家自身と遺産継承者にも恩恵をもたらしているようだ。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

https://www.wsj.com/articles/even-for-the-very-rich-more-money-brings-happiness-1512662638

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