ビットコイン、ウォール街を席巻
ビットコインのトレーダーは乾杯する暇もない。先週のビットコインの価格は9000ドルを超えると数日で1万ドルの大台に乗り、その後数時間で1万1000ドルを超え、一時急落したものの再上昇した。ボラティリティの高さはとても通貨とは呼べず、価値の裏付けも曖昧であり、安全性も不確実だ。ギャンブルの感覚が否めないが、今年一年で1000%急騰という事実を投資家は無視できなくなっている。
この祭りにウォール街も加わろうとしている。商品先物取引委員会(CFTC)は、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)とシカゴ・オプション取引所(CBOE)によるビットコイン先物上場を認可し、ナスダックも先物の来年上場を計画している。
ゴールドマン・サックスのような金融機関も顧客によるビットコイン取引の手助けを検討しており、いったん踏み込めばもう後へは戻れないかもしれない。10月に、ビットコインのデリバティブを初めて提供したレッジャーXのポール・チョウ氏は、「1年以内に、複数の大手投資銀行が、バランスシート上にビットコインを保有するようになるだろう」と予想する。
ビットコインに熱狂している今年は、ニューヨーク証券取引所設立から200年目に当たる。株式市場の正式な体制構築には数十年を要した。暗号通貨市場は自らの力で体制構築を試みている。しかし、資産の安全な保管が難しく、潜在的投資家にとっての多大なリスクとなっている。
暗号通貨には多くの資金と人材が流入し、ビットコインを含む暗号通貨全体の価値は年初の180億ドルから3000億ドル超へ急増した。多くの人々が暗号通貨業界に参入しており、シカゴ大学基金のポートフォリオマネジャーを辞めて、暗号通貨のヘッジファンドであるブロックタワー・キャピタルを共同で創業したアリ・ポール氏もその1人だ。
ポール氏は、「伝統的な資産クラスは、非常に硬直的だ。アルファ創造は極めて困難で、ファンド運用は間違いを犯さないことが全てだ。ベンチマークを5%アウトパフォームすることに奮闘しているヘッジファンドもあるが、それでもそのパフォーマンスは離れ業だと言われる。しかし暗号通貨では、そのようなパフォーマンスを2週間に一度は目の当たりにする」と語る。しかし悪い側面もあり、「極めて高いボラティリティ、運営リスク、セキュリティー上の課題もあり、簡単にもうけが手に入るわけではない」と同氏は付け加える。
とはいえ、ビットコインの価格は、年初来で1000%上昇した。その間にビットコインから派生して、より速やかな支払いシステムとして設計されたビットコイン・キャッシュという新たな暗号通貨が誕生した。米国最大の暗号通貨取引所であるコインベースにおける口座数は、今年1000万件を超え、感謝祭後のわずか3日間で10万件増加した。過去50日の世界のビットコインの1日当たり取引額は10億ドルを上回っている。
• ビットコインの魅力と欠点
ビットコインに対する強気の論拠は、しばしば循環論法的だ。つまり、人々が望むから価値が上昇し、価値が上昇するから保有を望む人々が増える、というものだ。
ビットコインは通貨としては利用性が高くない。しかしビットコインは、貴重な通貨である必要はない。ビットコインに対する強気派は、価値を貯蔵し投資目的で保有する金のようなものだと主張する。ビットコインは金同様に、他の大半の資産との価格の相関性がなく、供給も限られている。
投資家はビットコインを個人投資家や機関投資家向けの取引所から直接購入でき、取引コストは取引額の1%未満だ。ただし、取引所はハッキングに対して脆弱(ぜいじゃく)で、ビットコインを保存する最も安全な手段は、インターネットにつながっていないハードディスクドライブ(HDD)での保存だ。ビットコインを安全に保存した上で取引可能にするという、金融資産としての保管上問題点が、機関投資家の参加促進に対する最大の課題で、現状では大半の保険会社はこの分野に参加しないだろう。
ビットコインは資金洗浄にも使われるため、適格投資家はビットコインを直接購入できず、ビットコイン関連の上場投資信託(ETF)もない。投資家は、ビットコイン・インベストメント・トラスト(GBTC)と呼ばれる有価証券に投資できるが、それは保有するビットコインの額に対して大幅なプレミアムで取引されている。
大手機関投資家は、知り尽くしている取引所で買える商品を待ち望んでいた。そこにシカゴの取引所が登場した。先物の上場は、システムの流動性を増加させるが、最も顕著な影響は下振れに対応できるようになることだろう。ボストン大学で金融を教える元フロアトレーダーのマーク・ウィリアムズ氏は、「証券所に上場されれば、空売りの手段になる」と語る。
ただし、ビットコインがウォール街のお墨付きを得られたとしても、突然安全になるわけではない。ビットコイン取引には、独特のリスクがある。まず、正確な価値を見いだすことが課題だ。CMEは、ビットコインの最も正確な価格を判断するために、英国のクリプト・ファシリティーズと協力してきた。ビットコインは世界の十数カ所の取引所で取引されているが、往々にして価格は大きく異なっている。差を埋める裁定取引も活発だが、価格差は1%を超えることが多い。クリプト・ファシリティーズは、取引決済のための公式価格として使われるビットコイン参照レートを算出するために、4カ所の取引所を利用する。しかし、これらの取引所が信頼できない場合もある。
現金決済の先物取引は、ビットコイン自体の保有よりも安全にみえるかもしれないが、先物特有のリスクをもたらすことになる。一つには、先物がスポット価格に基づいて決済されることだ。
レッジャーXは、取引をビットコインで決済しており、1週間の取引額は600万~700万ドルだ。チョウ氏は、以前働いていたゴールドマン・サックスであれば、現金決済の先物に関するリスクをスポット市場の取引でヘッジするだろうが、ビットコインでは、多くの機関投資家にそのような選択肢はなく、現状では、ビットコインのリスクは極めて高いと語る。
また、先物取引はレバレッジを必然的に伴うが、それはビットコインの大幅な価格変動を増幅する可能性がある。ネット証券のインタラクティブ・ブローカーズの会長であるトーマス・ピーターフィー氏は、「ビットコインのような商品の合理的な信用取引は不可能である」として、CMEに対してビットコイン上場計画を再考するよう、ウォール・ストリート・ジャーナルに全面広告を掲載した。
CMEは、セキュリティー対策を強化することでリスクを適切に管理できる、と反論した。その一つが証拠金比率で、CMEは名目取引額の35%を検討している。これに対して、S&P500指数先物の証拠金比率は5%だ。
• 類似品も続々
なお、新たな代用通貨も登場し、ビットコインの輝きを奪っている。コインマーケットキャップ・ドット・コムによると、暗号通貨におけるビットコインのシェアは、年初は87%だったが現在は約55%だ。ビットコイン以外にも、有名どころではイーサリアムやリップル、さらには1200以上の代用通貨がある。コインスケジュール・ドット・コムによると、投資家は代用通貨に今年36億ドルを費やしており、2016年の9600万ドルから大幅に増加した。とはいえ、代用通貨の99%はジャンクだという見方もある。
これら通貨は、ブロックチェーンまたは同様の分散型台帳技術に基づいているという意味ではビットコインと同様だ。しかし、一部の企業によって承認され不換通貨として流通するビットコインとは異なり、大半の新たな代用通貨は単体では機能できず、クラウドの外ではほとんど使用できない。新たな代用通貨は専門のウェブサイト上のクラウドファンディングで資金を調達し、ビットコインまたはイーサリアムとの交換を可能にしている。
大半の新たな代用通貨は、運用者が創造するそれぞれのデジタル世界のみで使用可能だが、それ以上を約束する代用通貨もある。例えばプロトコル・ラボはファイルコインを発行しており、ネットワーク上の第三者が提供するクラウドコンピューティング・ストレージの購入に利用できる。
ファイルコインは成功する1%に含まれる可能性があるが、その他はほとんど夢物語だ。規制の観点でより重要なのは、代用通貨は、事実上の有価証券でありながら、有価証券が通常備えている保護がなく、人々はクラウドファンディングの潜在性ではなく、投資収益力に魅了されて購入している。
証券取引委員会(SEC)は7月に、登録上の目的で、有価証券とクラウドファンディング・プロジェクトの区別に関するガイドラインを発表した。規制当局の報告書にもかかわらず、代用通貨に関する具体的なガイダンスは依然として最低限のままだ。
• 代用通貨への関与者拡大
新たな形態の投資銀行も台頭している。モルガン・スタンレーでの勤務経験があり、現在は代用通貨会社の資金調達を支援するアルゴン・グループで働くイリーナ・ディメナ氏は、「われわれは、投資銀行の過去の経験とベストプラクティスの応用を試みながら、新たな産業を生み出している。この業界を正しい方向に導きたい」と語る。
ベンチャー・キャピタルとヘッジファンドが代用通貨業界を育んできたほか、一部の公開会社も踏み込んでいる。インターネット通販大手の オーバーストック・ドット・コム (OSTK)の最高経営責任者(CEO)であるパトリック・バーン氏は、代用通貨を取引するための認可を受けた新たなプラットフォームを開発している。
先週のコインデスク・コンファレンスでは、活気と慎重さが入り交じっていた。多くの参加者がビットコイン売却で大金持ちになる可能性がある一方、パネリストはパーティーがいつ終わってもおかしくないことを理解すべきだと警告した。しかし、ビットコインから関心をそらすには、リスクだけでは不十分な可能性がある。大学基金で運用経験のあるポール氏は、「基金の1%を暗号通貨に投資すれば、それは残りのポートフォリオとの相関性がないためにリスクを低下させる」と語る。
• ビットコインに投資する理由
ビットコインは、価格変動が世界で最も激しい投資対象だが、バリュー投資家の間で一段と好まれるようになっている。ヘッジファンドのホライゾン・キネティクスは、55億ドルの資産を運用しており、1億ドルをビットコインに投資している。
同社を経営するマレー・スタール氏にとって、ビットコインは究極的なバリュー投資だ。同氏にとっての魅力は、ビットコインの数が限られていることだ。不換通貨の強さに依存する単純な投資は、インフレによって価値が低下するため、バリュー投資の対象としては疑問符が付くと同氏は語る。
レッグ・メイソン でバリューファンドのマネジャーを長年務めたビル・ミラー氏は、3年前にビットコインに関心を持った。同氏は2016年にミラー・バリュー・パートナーズを立ち上げて、ヘッジファンドのMVP 1の資産の5%をビットコインに投資し、現在ではファンドの時価の30%を占めている。ミラー氏は、ビットコインはバブルの可能性が高いと認めている。
他の人々は、バリュー投資家がビットコインに投資すべきか否かに関して、疑問を投げかける。ポイント・ビュー・ウェルス・マネジメントのデービッド・ディーツ氏は、ビットコインからは距離を置くと語り、政府の裏付けがない、本源的価値を持たないなど、多くの理由を挙げている。
以上、Barron'sより要約・引用しました。
https://www.barrons.com/articles/bitcoin-storms-wall-street-1512188427
おすすめ記事
- 1
-
独立社外取締役(コーポレートガバナンス・コード)について
コーポレートガバナンス・コード 2014年6月にとりまとめられた「『日本再興戦略 ...
- 2
-
独立社外取締役(コーポレートガバナンス・コード)の独立性基準について
独立社外取締役(コーポレートガバナンス・コード)の独立性基準 2014年6月にと ...
- 3
-
これまでの社外取締役/社外監査役の属性・兼任等の状況と、今後の 独立社外取締役(東証ベース)の選任についての調査・考察
株式会社コトラによる社外役員実態報告について 人材ソリューションカンパニーの株式 ...
- 4
-
職場の同僚と理解し合えないのは性格の不一致~人間関係に現れる価値観のちがい 組織理解vs他者理解~
職場の人間関係におけるアプローチについて、価値観の多様性から考えてみます。 相 ...
- 5
-
バブル体験の有無が価値観の差~70年代生まれと80年代生まれの価値観にみる世代ギャップ~
上司が、部下に的確に仕事をしてもらうために知っておくべきこと 「今の若いものは、 ...