採用契約書の「競業禁止条項(Non-compete)」に注意!
NY在住のStephanie Russel-Kraftは、去年9月にThomson Reuters Corp.の法務ビジネス関連の記者として採用されました。それまで2年間、Law360という法務関連のニュース配信会社で働いていた彼女にとっては、キャリアアップとなる転職でした。
しかし転職して数週間後、Thomson Reutersは彼女に退職を命じました。前職のLaw360がThomson Reuterに「彼女はLaw360就職時に競業禁止条項(Non-compete clause)にサインしている。従って同条項が有効である期間内は、Thomson Reuterへの転職はLaw360との契約違反にあたる」という文書を送ってきたからです。
Law360に入社したときStephanieは25歳でした。彼女が採用契約書にサインした時は、同条項の重大性を全く認識しておらず、転職活動時には同条項のことは忘れていました。彼女と同じようにLaw360から他のメディアに転職していった同僚もいますが、競業禁止条項が理由で転職ができなかったケースは聞いたことがないといいます。
競業禁止条項とは、コンピュータープログラミングやエンジニア職等、技術が会社の価値に直結しているような職種には以前より適用がありましたが、最近ではあらゆる分野の職務に適用されています。労働法の専門家によると、企業側は採用した若手にトレーニング等の機会を与えた後、さっさと転職されるのを防ぐために同条項を採用契約書に入れている場合も多いとのこと。
同様の事象がサンドイッチ・チェーンの「Jimmy John's」でも起こりました。Jimmy John'sの社員が他のサンドイッチ・チェーンに転職することを禁止した条項が、採用契約書に入っていたのです。同条項に疑問を持ったJimmy John'sの社員数名が同社を相手に裁判を起こしましたが、裁判所の判決は「雇用主が同条項を行使して社員の転職を阻止した具体的な例はない」として裁判自体を退けました。
ただ、Jimmy John'sのようなケースや、競業禁止条項が技術やネットワークが企業価値に直結していない職種や、まだ特に高尚な技術を持たない若手にも当たり前のように適用され始めている事態を受け、労務法関連団体や大学は同条項の使われ方について調査を開始しました。
ミシガン大学の調査によると、米国労働者の12%が競業禁止条項にサインをしたことがあり、その内28%はエンジニア・コンピュータープログラマー職に就いており、10%は特別なスキルを必要としない労働者でした。また同条項にサインした労働者の40%は、そのような条項があることも知らなかったか、対して気にも留めずに労働契約書にサインしていました。「競業禁止条項が、本来の目的から逸脱し、労働者が会社を辞めること自体を阻止する目的で使われるケースが見受けられる」と労働関連団体は器具を表明しています。
同条項の施行力はアメリカでは州によって異なります。NY州法では施行力がありますが、同条項が労働市場の流動性の障害になっては元も子もないと、NY州は「競業禁止条項は企業機密や守秘義務の適用される顧客リストの流出を防ぐ目的の場合に使用されるべき」という指針を出しました。ただ、その指針がStephanieのようなケースに当たるかどうかはまだ調査が必要です。カリフォルニア州では同条項の施行力はありません。その背景が実は高技術者の労働市場の流動化を促し、シリコンバレーの基礎を築くのに貢献したとも言われています。
日本ではアメリカほど一般化していない同条項ですが、採用契約にサイン・捺印する前には必ず契約書内容を熟読しましょう。
以上、Wall Street Journalより要約引用しました。
http://www.wsj.com/articles/noncompete-agreements-hobble-junior-employees-1454441651
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